あのとき、何を思い、試合に臨んでいたのか。時を経て選手同士が語らう「After Game Talk」。昨夏の全国選手権決勝を戦った慶応(神奈川)の加藤右悟(ゆうご)捕手(当時は右翼手)、小宅(おやけ)雅己投手、仙台育英(宮城)の湯浅桜翼(おうすけ)三塁手、鈴木拓斗左翼手の当時2年生だった4人をオンラインでつなぎ、振り返ってもらった。

 ――慶応は107年ぶりの優勝、仙台育英は史上7校目の連覇をかけた一戦は、決勝で史上初の先頭打者本塁打で幕を開けました。

  • 選手が対談で振り返るあの一戦 健大高崎×報徳学園(前編)

 加藤(慶) いきなり丸田さん(湊斗=現慶大)がホームランを打って、「やられたー」と思いました。めっちゃ目立ってるじゃん、と。

 小宅(慶) あの一瞬で慶応の流れになったと思いました。

 鈴木(仙) 本塁打の後にスタンドがすごく盛り上がった。相手の応援なのに、自分も楽しくなってきました。

 ――慶応の大応援はどのように感じていましたか。

 湯浅(仙) 三塁を守っていて横を見たら、ほぼ全員が旗を振っていた。選抜も初戦で対戦(2―1で仙台育英の勝利)しましたが、夏は想像以上でした。遊撃手の山田脩也さん(現阪神)と会話もできないほどでした。

 鈴木 自分は地元が兵庫なので、甲子園によく観戦に行っていたけれど、どの高校よりも迫力のある応援だった。それを一番近くの左翼のポジションで聞けました。

 ――慶応側は決勝の緊張感はありましたか。

 加藤 プレッシャーはなく、仙台育英と戦えることが楽しみでした。選抜の後に練習試合もやって、その時に、また夏の甲子園で対戦できたらいいねと、言い合っていたんです。

 ――それが頂上決戦で実現。小宅投手は五回から登板し、5回を無失点に抑えました。

 小宅 最後の打者を打ち取って優勝を決めた瞬間が一番印象に残っています。自分に対してどういう対策をしていたのかを聞いてみたいです。

 鈴木 甲子園に来てから調子が上がっているなと思っていました。(三振を奪われ)イメージよりも直球も伸びてスライダーもキレていた。

 湯浅 良い投手なので打てなくても仕方ないという気持ちでした。(2打席で左飛と右飛)今もはっきり覚えています。

 小宅 湯浅選手は一番警戒していたくらい。抑えることができてすごくうれしかったです。

 鈴木 加藤選手(2安打)と小宅選手は決勝で活躍した。どんな心構えだったんですか。

 加藤 でも、鈴木選手は(準決勝まで)甲子園で本塁打を2本打っているから……。僕は、それまでにスクイズをミスして、もうこれ以下はないという思いだった。打順も(4番から5番に)下がり、吹っ切れました。

 小宅 平常心で投げることをいつも意識しているので、決勝でも特別な感情は持たなかった。

 ――決勝を経験したことがどのように生きていますか。

 加藤 すべての面において基準が高くなった。プレーだけでなく、返事とか行動とかもそう。スイングスピードの数値も去年と比べながら成長できる。

 小宅 自分たちのプレーを意識しています。先輩たちはよいお手本ではあるけど、追いかけすぎないように。

 鈴木 去年の先輩たちはいい雰囲気で練習をしていたが、それでも日本一になれなかった。いい部分を引き継ぎながら、さらに意識を高く持って取り組んでいます。

 ――加藤選手と湯浅選手は昨秋の新チーム発足から主将になりました。

 湯浅 加藤選手は、どのようなチームづくりを心がけていますか。

 加藤 うちは3年生の半分近くが夏前に選手を引退してサポートに回ってくれる。去年は、そのサポートのおかげで優勝できたとすごく感じた。今年もそこをベースに、選手同士でミーティングをしています。

 練習では、打撃練習の割合を増やしている。仙台育英は6月は打撃に専念していると聞いたことがあるが、どんな内容ですか。

 湯浅 打撃強化期間は7秒に1回のペースでボールを打ち、それを3分1セットで繰り返す。1時間半くらいバットを振っています。

 加藤 ところで、須江さん(監督)の世には出ていない名言を知りたいです。僕が知っているのはやっぱり、「青春は密」。あとは、成長曲線はこうやって(少し斜め上)にいって、その後にこうやって(急上昇)いきなり伸びる、という話をしているのを見たことがあります。それ以外でお願いします。

 湯浅 個人的に話した時に言われたんですが、99.9%は0だと教えていただいた。どんな練習も100%で練習しないと意味がない。「99.9%で練習しても、それは0だ」というような名言をいただきました。

 加藤 すごい染みたというか、確かにな、と思える言葉ですね。メモしておきます。

 ちなみに、僕が一番好きな森林さんの名言は「三流は計画して、二流は実行して、一流は継続する」という言葉です。行動を起こせる人はすごいと思うので、できるだけ僕も行動に移そうと頑張っていたんですけど、やっぱりその行動を続けないと意味がない。主将として引っ張っていく上でも、1日だけやっても認めてもらえない。毎日、継続して頑張ることで信頼を得られると思うので、すごいその言葉が好きというかお気に入りです。

 湯浅 自分も同じようにすごい心に響いたので、部屋に書いて飾っておきたいなと思います。

 ――今年のチームのスローガンを教えてください。

 加藤 「一喜挑戦(いっきとうせん、一騎当千の四字熟語を引用した造語)」です。一人の喜びはチームみんなで分かち合い、常にチャレンジャーの気持ちを持つ、という意味です。去年優勝しましたが、自分たちの代では何も成し遂げていませんから。

 湯浅 自分たちは「ワンチーム」です。今年1月1日に石川県の能登半島を中心とした大きな地震が起きました。うちにも能登出身の部員がいて、その生徒も少し被害を受けた。須江先生から、13年前の東日本大震災で被災した時に石川県の方々に助けていただいたというような話を聞いた。自分たちもそれと同じように何かできないかと考えた時に、3月27日から約3日間、石川県の高校を招いて、招待試合をさせていただいた。その時に、順風満帆に野球ができなくても頑張っている石川県の仲間たちの姿を見て、離れていても心は一つという意味を込めてスローガンに決めました。

 ――いよいよ最後の夏を迎えます。

 加藤 一人で優勝旗を返しにいくのは寂しいので、神奈川大会を勝って、みんなで甲子園に返しにいきたいです。

 小宅 昨夏の決勝は一つの運命だと感じている。仙台育英は最高の相手。甲子園で再戦したい。

 湯浅 もう一度あの応援を聞きながらプレーしたい。決勝で戦って、次は勝たせてほしいです。

 鈴木 あの決勝が自分の中でターニングポイントになった。1年間、あの日を糧に頑張ってこられた。お互い、成長した姿を見せ合いたいです。(構成・山口裕起)

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