中国共産党中央対外連絡部の劉建超部長(左)と握手する岸田首相(29日午前、首相官邸)

岸田文雄首相は29日、中国共産党中央対外連絡部(中連部)の劉建超部長と首相官邸で面会し、日中が安定した協力関係を築く重要性を確認した。スパイ容疑による邦人拘束など両国間は課題が山積する。閣僚や与党幹部らも劉氏と会う厚遇ぶりには、中国との対話を重ねて懸案の打開につなげる狙いがある。

劉氏は中国共産党の外交責任者を務め、王毅(ワン・イー)氏の後任外相候補の一人とされる実力者だ。2022年に中連部長に就任して今回が初来日となる。

首相は日中間に課題や懸案があると指摘し「互恵的協力を加速していきたい」と伝えた。劉氏は「幅広い分野で日中交流を一層進めたい」と答え、ハイレベル交流を維持する必要性で一致した。

首相は23年11月に習近平(シー・ジンピン)国家主席との会談で再確認した「戦略的互恵関係」にも触れた。同関係の推進と建設的で安定した関係の構築に向けて対話を重ねる方針を申し合わせた。

上川陽子外相、自民党の茂木敏充幹事長、公明党の山口那津男代表らも劉氏と面会した。茂木氏との会談では定期的な対話の枠組みである「日中与党交流協議会」の再開で一致した。同席した自民党の伊藤達也氏が記者団に明らかにした。

同協議会は新型コロナウイルスの影響もあり、18年を最後に途絶えている。

劉氏は外相候補とはいえ、中国共産党高官の一人にすぎない。日本側がこれほど手厚くもてなすのは中国との対話の窓口をできるだけ多く保つためだ。

フランス、ドイツといった欧州の大国や米国は首脳級や閣僚が相互訪問するなど中国との交流が活発だ。これと比べ、日本は中国との閣僚らの往来が乏しい。

中国は23年8月に始まった東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出に反発し、日本産水産物の禁輸に踏み切った。日中間には他にも中国公船の沖縄県・尖閣諸島周辺の日本領海侵入や邦人拘束といった懸案がある。これらの問題はほぼ前進がみられない。

日本は多層的なパイプを構築し、少しでも課題を前に動かそうと模索する。首相は26日に韓国・ソウルで中国の李強(リー・チャン)首相との日中首相会談に臨んだばかりだ。劉氏との面会が重要なのは、政党間交流がより重みを持つ社会主義国との外交特有の事情がある。

中国は習氏をトップとする共産党が李首相率いる国務院(政府)の上位にあり、指導する仕組みをとる。外交政策は党の方針に基づいて決定し、実行する。中連部は他国の政党間交流など党外交の実務を担う。

中国側にも思惑がある。日米に韓国を加えた3カ国が安全保障面で結束すれば、中国の東シナ海や日本海での活動が制約を受ける可能性がある。日本との対話はこうした協力にくさびを打つ布石となる。

日本からの投資拡大への期待も大きい。中国経済は不動産不況を起点とする需要不足に直面する。習指導部は「高水準の対外開放」を掲げる。(田中雅久、北京=田島如生)

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