専門家は生成AIと知財との関係の整理はこれからも必要になると指摘する

内閣府は28日、生成AI(人工知能)と知的財産保護のあり方を議論する「AI時代の知的財産権検討会」の中間とりまとめを公表した。知財権についてAIに学習させる段階では原則、権利侵害は発生しないと整理した。法規制の強化でなく、技術対策や対価還元と組み合わせて権利者を守る考えを示した。

データ入力などの学習段階と、画像・音声・文章などを出力する生成・利用段階にわけて考え方をまとめた。意匠法や商標法、不正競争防止法において、学習段階は原則規制の対象外になると明記した。

知財担当の高市早苗経済安全保障相が28日の記者会見で発表した。検討会は2023年10月に始まったもので、6月に公表する政府の「知的財産推進計画2024」に反映する。

例えば、デザインなどの意匠は商品やサービスに使われることで権利侵害が生じる。学習すること自体は侵害にならない。一方で営業秘密データを不正に取得して学習するようなケースは不競法の規制対象になり得るとした。

著作権法の考え方は文化庁の小委員会での議論を踏まえた。著作物も原則許諾なく学習できる。創作的表現をそのまま出力する目的で学習させるなら規制の対象となる可能性がある。

生成・利用段階による権利侵害については意匠法、商標法、不競法においてAI特有の事情が考えづらいとした。従来の考え方を適用し、他の意匠や商標に似ているかどうかが権利侵害の判断になる。

著作権においても従来の解釈通り、元の作品と似ているか、元の作品に接してまねたかといった視点で判断する。

規制を強化せずに知財を保護する方策として①AIが生成したコンテンツを識別する「電子透かし」などの技術②契約によって開発者が権利者に対価を支払い、良質な学習データを得られるライセンス市場の形成――を挙げた。

検討会は発明の保護のあり方についても見解を示した。創作物にAIを利用した場合、現時点では「人の発明」だと結論づけた。AI自身が自律的に創作活動に関与しないためだ。これからの技術進展に伴って検討が必要になる可能性にも言及した。

AIに関わる主体ごとに期待される取り組みとして、知財侵害物の出力を防止する機能、アクセス制限や画像に特殊な処理を施すことで学習を防ぐ技術の採用を例示した。

AIの学習段階の扱いを巡り、クリエーターなどからは原則、法規制の対象外とすることに反発する声があがっている。

著作権法に詳しい中島博之弁護士は「クリエーターなどが『自身の著作権が侵害された』と訴えても、実際の裁判でAI事業者が学習データをしっかり出すのか。提出しても膨大なデータを検証できるのかといった問題がある」と話す。

知財法制が専門の飯島歩弁護士はAIによって「『人』と『道具』の関係が曖昧となり、人間も完全にコントロールできない」と指摘する。政府の取りまとめについては「いったん整理したがこれで終わりではない」との評価だ。

政府内でもAIへの対応を巡る議論は多面的に進めている。

22日のAI戦略会議は社会的影響が大きくリスクも高いAI開発事業者に関し、法規制も視野に入れて議論する方針を示した。安全保障面や犯罪の懸念が大きい分野では法規制を整備し、比較的低い分野はガイドラインといった緩やかな規制で対応するのを原則とする。

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