日経フォーラム第29回「アジアの未来」の晩さん会で演説する岸田首相(23日、東京都千代田区)

岸田文雄首相は23日、日経フォーラム第29回「アジアの未来」の晩さん会で演説した。東南アジア諸国連合(ASEAN)と共同で「今後5年間で10万人の高度デジタル人材育成を目指す」と表明した。26〜27日にソウルを訪れて臨む日中韓首脳会談については3カ国の協力を他の国や地域に広げる考えを示した。

「アジアの未来」は23日に都内で開幕した。首相は日本とアジアの課題解決に向けた取り組みとして、脱炭素、次世代自動車、デジタルの3分野を挙げた。

政府は2030年に国内でおよそ79万人のデジタル人材が不足すると推計する。理系教育の強化や社会人のリスキリング(学び直し)などで成長分野に人材を回すことが急務になっている。

ASEANもデジタル分野を成長のエンジンと位置づけており、人材確保は共通課題となる。配車サービスのゴジェックやグラブといったIT(情報技術)新興企業が登場している。データセンター事業や半導体産業の振興にも人材育成が欠かせない。

首相は人工知能(AI)や半導体の人材育成へ日本政府が資金を拠出する国際シンクタンク、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)が中心になり、ASEAN各国の工科大学と連携すると説明した。

日本やASEANのスタートアップを含めた企業のAI開発を支援する。「各国の文化・言語に根ざした基盤を構築できるよう強力に後押しする」と述べた。「DX(デジタルトランスフォーメーション)を支える基盤は人だ」と言明し、人材の相互交流で信頼関係を深める。

次世代の自動車産業に関して共同戦略を初めて策定し、秋に公表するとも明かした。「ハイブリッドから電気自動車(EV)まで多様な自動車の生産・輸出ハブを実現するための戦略を具体化する」と強調した。

「競争を勝ち抜くには今後10年間が勝負だ」と提起した。ERIAなどが35年の世界の自動車市場について分析する。日本勢が高いシェアを持ち、重要な生産拠点でもあるASEAN市場で、中国製EVの販売が急拡大している。日ASEANの官民が協力し、中国勢に対抗する。

日本主導でアジアの脱炭素をめざす連携枠組み「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」を巡り、首相は第2回閣僚会合を8月にジャカルタで開催すると語った。

二酸化炭素(CO2)削減量を評価するためのルール整備で協力する。脱炭素への移行に向けた投資促進、工業団地の再生可能エネルギー導入、水素製造、アンモニア発電などで貢献していくと発言した。

27日に4年半ぶりにソウルで開かれる日中韓首脳会談に言及した。「日中韓プロセスを再活性化させ、地域の平和と安定に大きな責任を共有する3カ国の実務協力を重ねていく」と意欲をみせた。

大学間の交流プログラム「キャンパス・アジア」の拡大を例に挙げて「3カ国の協力の利益を他の国や地域に広げる『日中韓+X』を進める」と話した。

日本は「自由で開かれたインド太平洋」を掲げる。首相は23日の演説でも「人間の尊厳が尊重され、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が維持、強化されるアジア」を次世代に引き継ぐ重要性を改めて訴えた。

中国の軍拡や東・南シナ海への進出を念頭に置いたものだ。日中韓首脳会談を目前に緊張のエスカレートを回避しながら、経済・教育など協力可能な分野とのバランスを探る考えをにじませた。

米欧との緊密な連携は不可欠とし「日本はその先頭を走っていく」と力説した。

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