静岡県知事選で立候補者の第一声に耳を傾ける有権者(9日、静岡市役所前)

静岡県知事選が9日に告示され、立候補した新人6人が県内各地で政策を訴え始めた。同日で辞職した川勝平太知事が4月に辞職願を提出してから5月26日の投開票まで異例の短期決戦により15年ぶりに県政を担う新たなリーダーを選ぶ。

選挙戦は主要政党の推薦や公認などを背景に、立候補者のうち総務省出身で元県副知事の大村慎一氏、前浜松市長の鈴木康友氏、共産党県委員長の森大介氏の3氏が軸とになるとみられる。大村・鈴木両陣営の出陣式には与野党の国会議員や県中部・西部の財界関係者が駆けつけ、国政や地域色も色濃く映した。

「県民の手に県政を取り戻したい」。午前9時半ごろ、静岡市役所前で行われた出陣式で大村氏は訴えた。静岡市の難波喬司市長ら県内自治体首長のほか、推薦する自民党の城内実・県連会長ら国会議員の姿もあった。

大村氏は県中部の経済界の後押しもあり出馬を決めた。静岡鉄道の酒井公夫会長ら企業幹部らも応援に集まった。静岡商工会議所の高橋明彦副会頭(鈴与副社長)は同商議所として同日に大村氏への支援を明言した。

大村氏は正午にはJR浜松駅(浜松市)近くで西部地区での出陣式を開いた。演説で水資源などへの影響を理由に川勝氏が着工を認めてこなかったリニア中央新幹線の静岡工区について「大井川の水と環境を守りながら、1年以内に結果を出す」と期間を区切って方向性を示す姿勢を強調した。

総務省出身の大村氏は中央省庁など国とのパイプもアピール。「国にも出てもらい、浜松駅にもっと新幹線が止まり、観光も盛んになるように頑張る」と訴えた。浜松の官民が望む県の遠州灘海浜公園篠原地区への多目的スタジアム整備計画は「2万2千人のドームありきの議論はやめよう」と主張。「ゼロベースから見直して最速で野球場を整備する」と述べた。

県西部の経済界や野党系が支援・推薦する鈴木氏は午前10時半、地盤の西部ではなく東部地区の沼津駅前で出陣式を開いた。東部の有権者の支持は知事選の一つのカギとなる。第一声では「オール静岡で日本一幸福度の高い静岡県をつくろう」と強調した。

スタートアップの誘致・育成に加え、伊豆などを抱える東部の魅力を絡めて首都圏からの移住促進も進めたいと訴えた。小雨が降る中、鈴木氏を推薦する立憲民主党の渡辺周元防衛副大臣、元総務相の樽床伸二氏、清水勇人さいたま市長などが駆け付けた。

午後3時には静岡駅北口に移動し、中部地区の出陣式。中山間地域の交通の足を守るためのライドシェア推進や豪雨災害対策などを訴え、「市長としての経験を即戦力として県政にいかしていける」とアピールした。

連合静岡の角山雅典会長や県議会第2会派のふじのくに県民クラブの田口章会長らが出席した。鈴木氏は浜松市長時代の財政改革の成果も強調し、県債の発行計画の見直しなど県財政のスリム化にも意欲を示す。

その後の西部での出陣式では野田佳彦元首相ら立憲民主、国民民主の国会議員、名古屋市の河村たかし市長があいさつ。スズキの鈴木修相談役も姿をみせ、「元気に頑張って」とエールを送った。

午前9時半ごろ静岡駅前で第一声に臨んだ共産党公認の森氏は「リニアと原発を許さず、県民の暮らし福祉最優先、希望の持てる県政へ」と述べた。18歳以下の子供の医療費無料化や学校給食費の無償化など子育て支援策の実現も主張。共産党衆院議員の本村伸子氏などが応援に訪れた。

大村・鈴木両氏は「オール静岡」を掲げるが、実情は複雑だ。鈴木氏を支援する連合静岡内でも大村氏を推したいという産業別労働組合があったほか、自民党の浜松市の支部は地元の鈴木氏を応援するなど両陣営とも必ずしも一枚岩ではない。

静岡県知事選のポスター掲示板(静岡市)

自民の城内会長は「与野党対決ではない」と出陣式で改めて強調したが、衆院の3補選で自民が全敗した後の注目が高い地方選挙であり、国政の行方に与える影響は少なくない。ただ、経済界も西部と中部で分かれ、政治資金問題などで揺れる自民に迫るはずの野党側も極端な対決姿勢を打ち出しにくい。

投票率も注目される。リニアが争点だった前回知事選は53%だったが、17年と13年の知事選は50%を下回った。県では沼津市出身の俳優、磯村勇斗氏を選挙啓発キャラクターに起用して幅広い年代の投票を呼びかける。

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