除去土壌の仮置き場を視察する石破茂首相(左から3人目)。その右は説明する伊沢史朗双葉町長=福島県双葉町で2024年12月14日(代表撮影)

 経済産業省が17日に示した「エネルギー基本計画」の改定案は「原発依存度を可能な限り低減する」との表現が消えるなど国の原発回帰の姿勢を鮮明にする内容だった。東京電力福島第1原発事故の被災地からは「あの事故を忘れたのか」と憤りの声が聞かれ、他の原発が立地する自治体も国に丁寧な説明を求めた。

 第1原発が立地し、一時全町民が避難を強いられた福島県双葉町。同県いわき市で避難生活を送る農家の木幡治さん(74)は「13年前、あれほどひどい事故があって、今も避難生活を送っているのに、もう忘れたのかと言いたい」と怒りをあらわにした。

 2022年8月に避難指示が解除された町内の特定復興再生拠点区域(復興拠点)にある畑で、その年からブロッコリーの栽培を始めた。復興拠点内にあった自宅は荒廃が進んだため解体し、跡地にはトラクターなどを置いた倉庫だけが建っている。

 石破茂首相は14日、第1原発や中間貯蔵施設を視察し、原発事故に伴う除染作業で発生した双葉町内の土壌の仮置き場も訪れた。木幡さんは「石破首相は被災地の現状を視察したはずなのに……。『原発はなくす』という姿勢を基本に据えながら、エネルギー政策を考えてほしい」と訴える。

 双葉町の町営住宅で暮らす国分信一さん(74)は元東電社員で1970年代に町に移住したが、原発事故による避難中、義母や妻を病気で相次いで亡くした。今回の改定案について「エネルギー価格の高騰が続いているのである程度は予測していた」と一定の理解を示しつつ「国は原発に代わる新たな再生エネルギーの構築に向けて努力してほしい」と求めた。

除去土壌の仮置き場を視察する石破茂首相(中央)=福島県双葉町で2024年12月14日午前11時28分(代表撮影)

 改定案では、原発の廃炉を決めた電力会社が、保有する別の原発の敷地内で「建て替え」を行うことを認めている。

 九州電力玄海原発がある佐賀県の山口祥義(よしのり)知事は記者団の取材に「徐々に原発の依存度を減らしていくことが(政府の)大きな考え方だと思っていたので(今回の改定案を)『突然そういう話になった』と受け止めた。しっかりと議論をして、説明をしてもらうことがあった方がいい」と要望した。

 日本原子力発電の敦賀原発や関西電力の高浜原発、大飯(おおい)原発がある福井県の立地市町の首長はコメントを発表した。

 全国原子力発電所所在市町村協議会の会長を務める敦賀市の米澤光治市長は「『GX(グリーントランスフォーメーション。化石燃料中心から、原発など発電時に二酸化炭素を排出しないエネルギー中心への転換)実現に向けた基本方針』の方向性とおおむね整合した原子力政策が示されており、一定の評価ができる」と歓迎した。

 高浜町の野瀬豊町長は「次世代革新炉の建て替えやバックエンド(発電が終わった後段階)問題の解決など、将来にわたって原子力を活用していくため国民への丁寧な説明と理解醸成などに努めていただきたい」と、国の役割にくぎを刺した。おおい町の中塚寛町長も「今後減少し続ける原子力の設備容量に対する必要量とその整備に向けたロードマップが示される必要がある」と注文を付けた。【柿沼秀行、五十嵐隆浩、高橋隆輔】

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