所ゆきよしさんが毎日新聞に掲載した作品(1989年6月18日掲載)

 時々の世情を風刺する「政治漫画」を、毎日新聞紙上で38年間連載した所ゆきよしさん(享年76)が世を去り、16日で1年になった。所さんの政治漫画は2頭身にデフォルメされた政治家たちが、とぼけたセリフを放つことで時事問題の滑稽(こっけい)さや深刻さを浮き彫りにしてきた。

 時あたかも、自民党総裁選と立憲民主党代表選のまっただ中。存命なら今の政治をどう描いただろうか。所さんの政治漫画の世界をシリーズで振り返る。(肩書は紙面掲載当時)【田中成之】

 リクルート問題に揺れた竹下登内閣は、1989年3月の毎日新聞世論調査で「9%」という記録的な低支持率となり、89年度予算の成立とともに退陣に追い込まれた。7月に参院選が迫っており、「新しい顔」を求める自民党内の動きも大きく影響した。

 国政選挙での勝利を見通せない党首が交代する構図は、今回(2024年)の自民党総裁選も同様だ。シリーズ3回目は宇野内閣をテーマに所さんの作品をたどる。

天安門事件を伝える毎日新聞の紙面(1989年6月5日)

女性スキャンダルで支持率低迷

 竹下氏の後任の宇野宗佑首相は89年6月3日に就任したが、その3日後に発売された「サンデー毎日」が「新首相の醜聞」として女性問題をスクープ。同月9~11日の世論調査での内閣支持率は22%と低迷した。

所ゆきよしさんが毎日新聞に掲載した作品(1989年6月25日掲載)

 宇野政権は、就任直後に中国で起きた天安門事件と、女性問題に翻弄(ほんろう)された。同月18日掲載の作品では早速、人気低迷とともに首相ポストも危うくなっている状況が描かれている。

 それが明確になったのが6月23日告示の東京都議選だった。自民党公認の都議選候補から首相への応援演説の要請がほとんどなかったのだ。25日掲載の作品では、雨の中で傘を貸そうとする宇野首相を「都議選候補」が袖にする光景が描かれている。

所ゆきよしさんが毎日新聞に掲載した作品(1989年7月2日掲載)

 選挙戦最終日の7月1日も首相の応援演説が実現するかが注視されたが、党東京都連が「応援演説は求めない」と正式決定するほどの不人気ぶりだった。

宇野政権の窮状を報じる毎日新聞の紙面(1989年7月2日)

 都議選投開票日の7月2日掲載の作品では、力士姿の首相が土俵の上で青ざめる姿が描かれた。女性スキャンダルや消費税など、政権の「四重苦」を記した4枚の懸賞幕を前にしての表情だ。

 作品の上に配された記事の見出しは「宇野政権1カ月 隠せぬ“末期症状”」。都議選での自民党の獲得議席は43議席で、選挙前の63議席から大きく減らした。

閣僚の舌禍が追い打ち

 間を置かず、7月5日に参院選が公示される。野党が擁立した女性候補が「マドンナ候補」と注目される中、閣僚の舌禍が炸裂(さくれつ)する。

農相による女性蔑視発言の撤回を報じる紙面(1989年7月9日)

 「女が政治に進出するのは無理だ。アメリカの議員に女性はいない。サッチャー(英首相)は別格だ。そのサッチャーには夫と子がいる。土井(たか子社会党)委員長はどうか。結婚もしていない。子を産んだこともない。これで日本の総理が務まるか」

所ゆきよしさんが毎日新聞に掲載した作品(1989年7月9日掲載)

 堀之内久男農相による参院選候補の演説会での発言だった。

 7月9日付の朝刊1面で農相の発言撤回が報じられ、同日2面掲載の作品では、宇野首相が空中ブランコで飛び移ろうとするのを腕組みして拒否する女性演者が描かれている。

所ゆきよしさんが毎日新聞に掲載した作品(1989年7月23日掲載)

 参院選投開票日の7月23日に掲載された作品で描かれた首相は、ノーアウト満塁でマウンドに立つピッチャー。野党党首たちが塁を埋め、「左」打者の土井氏が打席に立っている。

参院選での自民党敗北を伝える紙面(1989年7月24日)

 自民党は改選69議席を36議席に減らし、翌朝の毎日新聞は「自民 壊滅的敗北」の見出しでそれを報じた。

 宇野首相は投開票翌日の24日に退陣表明。「新しい顔」は定着せぬまま、歴代4番目に短い在任期間69日の短命政権で幕を閉じた。

9月16日から銀座で遺作展

 所さんの命日である9月16日(月)から「所ゆきよし遺作MANGA展」(毎日新聞社後援)が東京・銀座の画廊「GINZA GALLERY STAGE―1」(東京都中央区銀座1の28の15)で始まりました。12時~19時。最終日の21日(土)は16時まで。入場無料。

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