働く高齢者の年金を減らす制度は就労意欲をそぐ要因に

政府が13日に閣議決定した高齢社会対策大綱では「働き方に中立的な年金制度の構築を目指す」と明記した。働く高齢者の増加をふまえ、在職老齢年金を見直す。あわせて75歳以上の後期高齢者のうち医療費の3割を自己負担する対象者を広げて、社会保障制度の持続性も高める。

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在職老齢年金は賃金と厚生年金の合計が月50万円を超えると、支給額の一部または全部がカットされる仕組みだ。2022年度末の対象者は65歳以上で50万人いて、働く受給権者の16%にあたる。支給停止額は4500億円にのぼる。

働き方に中立的な年金制度の構築を巡っては「さらなる被用者保険の適用拡大などに向けた検討を着実に進める」と大綱に記載した。在職老齢年金の撤廃や見直しの検討を示す表現となっている。

65歳以上の就業者数は20年連続で前年を上回り過去最高を更新した。働き損にならないように就業調整する高齢者もおり、制度の見直しを求める声があった。

政府・与党が年末にかけてまとめる25年の年金制度改革案を巡る議題の一つになっている。制度の縮小・廃止には追加の財源を検討する必要がある。

7月に厚生労働省が示した公的年金の長期見通しとなる「財政検証」では、年金減額が始まる基準額に応じて給付に必要となる金額を示した。基準額を53万円にすると増える給付額は900億円、59万円で1800億円、65万円では2600億円、撤廃には4500億円と記した。

前回の20年改正でも在職老齢年金は焦点の一つだった。「高所得者優遇」との批判があり、60〜64歳の月28万円の基準額を当時の65歳以上と同じ月47万円に引き上げる改正にとどまった。

大綱の改定に向けた政府の有識者会議に参加したみずほリサーチ&テクノロジーズの藤森克彦主席研究員(日本福祉大学教授)は「長く働く高齢者にとって不合理なペナルティーになっている」と述べる。

高所得者優遇との批判に対しては「拠出した保険料に見合った給付を行うことは社会保険の原則だ。本来の原則に沿った給付に戻すのであり優遇ではない」と指摘する。

政府が高齢者の就労を促すのは、主に2つの理由がある。一つは人手不足の対策だ。少子化で働き手が減るなか、企業にとっては高齢者は貴重な戦力だ。働く意欲をそいでしまう制度は見直す必要がある。

もう一つは社会保障制度の持続性を高めることだ。公的年金制度にとっては少子高齢化は逆風だが、60歳以降の人が働き続けて厚生年金保険料を納める側に回ると年金財政の安定性が増す。

公的医療保険でも、75歳以上の後期高齢者のうち、医療費を3割自己負担する「現役並み」所得の対象拡大に向けて「検討を進める」と大綱に明記した。

後期高齢者の窓口負担は原則1割で、一定の所得がある人は2割だ。現役世代は3割を負担している。「現役並み」の所得とは単身で年収約383万円以上を指し、全体の7%ほどにとどまる。

これまで主に現役世代が支えてきた社会保障制度を、年齢に関係なく負担能力に応じて支える「全世代型社会保障」に切り替えていく一環といえる。

今回の大綱では29年に60代前半の就業率を79%、60代後半を57%とそれぞれ23年比で5ポイント増やす政府目標を盛り込んだ。

日本の高齢化が世界でも類を見ない速度で進んでいるとして、高齢者のリスキリング(学び直し)や身寄りのない高齢者の孤独・孤立防止、住宅確保の支援推進なども盛った。

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