米大統領選を控える選挙イヤーの2024年。7月にあった英国の総選挙と東京都知事選の結果は有権者の既成政党への不満を見せつけた。30年前に大改革があった日本の選挙制度の問題にも行き着く。

英下院選は労働党が圧勝し、保守党から政権を14年ぶりに奪還した。得票率34%だが議席占有率63%と単純小選挙区制のマジックが効いた。

政権交代の裏側で見逃せない変化もあった。保守、労働両党の得票率をみると合計57%と戦後初めて6割を切った。第3党の自由民主党、ポピュリズム政党のリフォームUKも1割超を得た。二大政党制のお手本とされる国で民意の多様化が止まらない。

明治学院大の池本大輔教授(英国政治)は「これまで保守層は保守党を嫌っても、労働党を利するので少数政党に投票するのをためらう傾向があった。今回は保守党はそっぽを向かれ、少数政党に一定の支持が集まった」と分析する。

都知事選は事実上の与野党対決との下馬評を覆し、世論調査で3番手につけていた石丸伸二氏が2位の165万票を集めた。立憲民主党が支援した蓮舫氏を上回り、既成政党に「石丸ショック」が走った。

24年は日本が衆院選に小選挙区比例代表並立制を導入した1994年から、ちょうど30年でもある。多様化する民意や既存の政治勢力への不満を小選挙区制がくみ取れてきただろうか。

小選挙区制の特色の教科書的説明である「政権交代のダイナミズム」も2009年の民主党政権の誕生、その反動としての12年の自民党の政権復帰という2回しか起きていない。

小選挙区制は1994年当時の細川護熙首相と自民党の河野洋平総裁のトップ会談で採用が事実上決まった。河野氏は最近「本心は小選挙区制ではなく定数3人の100選挙区」だったと明かし、小選挙区制は「失敗」と断じた。

細川政権の中枢で政治改革に関与した田中秀征元経済企画庁長官は「小選挙区制の導入が日本の劣化を加速したと深く反省している」と話す。政党が前に出てきた代わりに、政治家の人格や識見が軽視され「構想力や政策立案力が著しく低下した」と問題視する。

移り気な民意を助長するSNS(交流サイト)時代だからこそ政治家の識見や政策能力が重要さを増す。

超党派で現行制度を点検する動きも出てきた。6月に発足した議員連盟は趣意書で「並立制の導入による政治システムの硬直化、政治家自身の劣化」を指摘し、選挙制度改革をめざす姿勢を打ち出した。

呼びかけ人の一人、自民党の古川禎久元法相は多様化する価値観に小選挙区制が対応できていないとの立場だ。選挙区ごとに複数の候補に投票できる中選挙区連記制を提唱する。

議連の顧問に自民党の石破茂元幹事長が就いた。石破氏はかつて政治改革を求め小選挙区制論者の代表格といえる小沢一郎氏とともに自民党を一度離党した。

30年前の改革の見直しをタブー視する空気は薄れた。議連には自民党の小渕優子選挙対策委員長や木原誠二幹事長代理の姿もあった。古川、小渕、木原の各氏は有識者が参加する「令和国民会議(令和臨調)」に賛同する有志議員メンバーでもある。

令和臨調も選挙制度の議論を見込む。経済界も経済同友会が1月に示した政策提言に「『平成の政治改革』の不完全性」を盛った。

平成改革後の30年は日本の「失われた30年」とも重なる。25年は選挙制度見直しの材料となる国勢調査のほか参院選を予定する。衆院選は25年までにある。「令和の政治改革」へ踏み出す好機だ。(亀真奈文)

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