旧優生保護法国賠訴訟の原告団らから要求書を受け取る岸田首相(17日、首相官邸)

政府は29日、「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた対策推進本部」の初会合を首相官邸で開いた。政府全体で取り組む必要があるとして全閣僚で構成する。これまでの国の施策を見直して課題を洗い出し、平等に生きる社会づくりへ教育や啓発などを強化する。

岸田文雄首相は会合で「障害者への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であり、社会全体が変わらなければならない」と強調した。出席した閣僚らに「本部が持つ重みを理解のうえ協力をお願いする」と呼びかけた。

首相は同本部の下に置く幹事会で有識者の協力を得ながら障害当事者の意見を聞いて成果を取りまとめることなどを指示した。「本部の成果として新たな行動計画を取りまとめていく」との方針を示した。

政府が本部を設けた背景には旧優生保護法を巡る3日の最高裁大法廷の判断がある。大法廷は障害を理由に正当な理由なしで不妊手術を認めた同法の規定は「特定の個人に対して重大な犠牲を求めた」として、個人の尊重を定めた憲法13条に反すると指摘した。差別的な取り扱いは法の下の平等を定めた憲法14条にも違反すると言及した。

48年間にわたって障害がある人を差別した国の責任を「極めて重大」と大法廷が認定したことを踏まえ、首相は17日に被害者らに謝罪した。

首相は29日の会合で「憲法違反とされた旧優生保護法に基づく施策が約半世紀もの長きにわたって合憲とされ、数多くの障害者の個人の尊厳を蹂躙(じゅうりん)し、苦難と苦痛を強いてきた重い事実と教訓を踏まえなければならない」と語った。

加藤鮎子こども政策相と小泉龍司法相に対し、被害者への補償のあり方を検討する超党派の議員連盟との調整を急ぐよう指示した。

首相が主導して全閣僚をメンバーとする推進本部を発足させることで対策への本気度を示す。首相は立ち上げを表明した際「優生思想および障害者に対する偏見差別の根絶に向けて、これまでの取り組みを点検する」と意義を明かした。

政府は2006年に国連で採択された障害者権利条約に基づき、13年に障害者差別解消法を制定した。22年の内閣府調査では74%が同法を認知していない。

同法は国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、互いに人格と個性を尊重する共生社会の実現を念頭に置く。障害を理由とする差別の解消を進める狙いがある。24年4月には改正法が施行され、障害者の活動を制限する障壁を取り除く「合理的配慮の提供」を民間事業者に義務づけた。

障害者への差別や偏見は今も残る。2022年11月の内閣府調査によると、差別を「あると思う」「ある程度はあると思う」と回答した割合は88.5%に上った。「ないと思う」「あまりないと思う」は9.8%にとどまった。およそ5年ごとの調査で、17年も「ある」の合計が83.9%、「ない」が14.2%で大きな変化はなかった。

首相は障害のある子どもが通う施設を見学するなどして寄り添う姿勢を示す。24日には札幌市の児童発達支援センターを訪問した。「教育と福祉が連携して障害のある子どもを支援する取り組みを政府としてもしっかりと後押ししていかなければならない」と強調した。

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