旧優生保護法を巡る国家賠償請求訴訟の原告団と面会し、それぞれの被害者に頭を下げる岸田文雄首相(右)=首相官邸で2024年7月17日午後4時14分、平田明浩撮影

 岸田文雄首相と旧優生保護法の被害者ら原告側との17日の面会は、当初の予定より約40分長い約1時間40分間にわたって行われた。5月に伊藤信太郎環境相と水俣病患者・被害者団体との懇談中に環境省職員が団体側の話の途中でマイク音声を切った問題も意識し、政府側は被害者の話をさえぎることがないように細心の配慮をしたとみられる。

 「優生手術等は尊厳をじゅうりんする、あってはならない人権侵害であり、解決は先送りできない課題だ」。首相は面会の冒頭でこう述べ、政府として謝罪。全国優生保護法被害弁護団の新里宏二共同代表は「被害者の人たちももっともっと早く、首相から直接謝罪の言葉を聞きたかったのではないか。被害者の生の声を聞いて、全面解決に全力を傾けてほしい」と訴えた。

 面会は午後2時45分から、原告側約130人が出席して首相官邸で開催。首相の謝罪の言葉の後、原告側の代表者18人が自らの経験談を1人当たり約2分間話し、午後3時45分ごろに終了するスケジュールが組まれていた。

 しかし面会が始まると、首相ら政府側は原告側一人一人の話に最後まで聴き入り、一人の話が終わる度に神妙な面持ちで頭を下げるなどした。終了予定時間が過ぎても気にするような進行は最後までなかった。

 聴覚障害がある小林宝二さんは「とても長い間、苦しい人生を送ってきた。国が悪いことをした。謝罪が遅すぎたと思う。私の妻、喜美子は亡くなってしまった。とても残念でつらい、寂しいです。国の責任で差別のない社会を作ってください」と訴え、1審判決後に亡くなった喜美子さんが生前に話したメッセージ映像を映した。「子どもがほしいと長い長い間、とても悔しくてつらくて悲しかった。ずっと我慢をしてきた。子どもがいた時の私の体に戻してほしい。国が憲法違反をした。私に謝ってほしい」。会場には二度と取り返しがつかない痛切なメッセージが響き渡った。

 原告側の訴えの後、首相は「皆様方との継続的な協議の場も設ける。お一人お一人に深く深く謝罪を申し上げる」と締めのあいさつをした。原告側の一人は「ありがとうございます」と謝意を伝えた。首相は午後4時25分ごろに会場を出るまで、一人一人と言葉を交わすなどしていた。【園部仁史、鈴木悟】

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