日常的に家族の世話や介護を担う「ヤングケアラー」を支援するための法律が、6月5日、成立しました。
自分で気づきにくい「ヤングケアラー」を救うことはできるのでしょうか。


■「意欲ある子供が、勉強できる環境を作る」 自分の時間を取れない家庭環境で育った女性の夢

大阪府八尾市で社会福祉法人が開く学習支援「びはーと」。

日常的に家族の世話や介護を担うヤングケアラーなど、家で勉強が難しい中学生や高校生、10数人が週に2回ここで学びます。

【ルフレ八尾 近藤龍太郎さん】「お母さんが精神的にしんどくて、家事ができなかったり、その間、子供が妹や弟の世話を見たり、そういう子供たちも今は通っています。そもそも家庭の中で自分の時間が少ない」


大学生のスタッフが1対1で勉強を教えます。

【スタッフ】「この単語見覚えある?」
【生徒】「ある」
【スタッフ】「ほんならこっちからやろうか」

ここでスタッフとして働く女性(23)は、中学生の時ここで学習支援を受けていました。
母子家庭で育ち、幼いころから自分の時間を取れなかったということです。

【スタッフとして働く女性(23)】「きょうだいがいたり、家のことを手伝ったりしないといけないから、自分の勉強だけに集中できなくて。当時は(ヤングケアラーであると)認識はなくて、お母さんも仕事しているし、当たり前というか、きょうだいで分担しようという気持ちが強かった。助けてあげようという」

家の手伝いで自分の勉強が後回しになり、友達と遊ぶ時間もあまりありませんでした。

同じような境遇の子供たちの助けになればと、スタッフを始め、今では夢もできました。

【スタッフとして働く女性(23)】「子供に対してはリラックスできる、居場所になったらいいなと思って接しています。自分がそういう家庭環境で育って『経済格差』、『貧困の格差』は続いているから。(将来は)そういうのをなくして、意欲ある子供が勉強できる環境を作れるような社会貢献したい」

■自治体によってヤングケアラーへの支援にばらつき 改正法でばらつき解消となるか

学校では一つの学級に1人から2人いるといわれる「ヤングケアラー」。しかし、子ども家庭庁の調査によると、全国の自治体のうちヤングケアラーの相談窓口などを整備しているのは約8%。

自治体によって支援に差があるのが現状です。

【相談窓口を設置していない自治体】「人員削減の流れもあり、専任の職員を置くのが難しい。ヤングケアラーの状況にもばらつきがあり、どこまで支援すべきか分からない」


こうした現状に国は…。
「本案に賛成の諸君の起立を求めます」

5日、参議院本会議で可決され、成立したのは「ヤングケアラー」への支援を明文化した「子ども・若者育成支援推進法」の改正案です。

今回の改正法では、「ヤングケアラー」が国や自治体が支援に努めるべき対象であると明記され、自治体での支援のばらつきが解消されることが期待されています。

大阪府では、「ヤングケアラー支援」のモデル事業として、学習支援をしている八尾市の社会福祉法人を助成。授業料は無料で、スタッフにも手当があります。

支援の担当者はこうした事業につながることで、学力があがったり、自分の居場所を見つけられたり、支援の成果は感じるものの、まだまだ課題はあると話します。

【ルフレ八尾 近藤龍太郎さん】「子供だけを支援しても結局、親を支援しないと、いつまでたっても環境は改善されない。親が介護状態だと、うまいこと色んな支援制度につながらないと、子供はずっと“ヤングケアラー”、ずっと“ケアラー”なんです」

子供への支援だけでは足りない現状があります。


■取り組みするも「支援を拒否する家庭が多い」 「なるべくハードルの低いサービスから支援を」と専門家

親への支援に取り組んでいる自治体もあります。

全国で最初に”ヤングケアラー”の相談窓口を設置した神戸市。

【神戸市相談支援課 上田智也課長】「こちらの方で電話相談を受けています」「多くは関係機関からの相談ですので、当事者や家族からの相談は2割以下」

神戸市では事業を始めてから3年間で404件の相談があり、そのうち196人のヤングケアラーを継続的に支援してきました。

2年前からは、全国で初めてケアの負担を軽減しようと、ホームヘルパーを自宅に派遣する事業も始めましたが、利用は11件と伸び悩んでいるのが現状です。

【神戸市相談支援課 上田智也課長】「支援を拒否している家庭が多い。自分たちのことだから、行政には関わってほしくないと拒否をしてしまうので、子供たちがしんどい思いをしてても、親が否定をしちゃうと、なかなか支援につながらないというのがある」


学校、地域、支援団体など、まわりにいる大人を、いかに巻き込んでいくかが大事だと専門家は話します。

【NPO法人ふうせんの会代表理事 大阪公立大学教授 濱島淑恵さん】「自分の家に他人をあげるというのは、大人も子供も当然ハードルが高いわけですし、兵庫県の場合だとお弁当の宅配を始めてますけど、人が中に入ってくるわけではない、なるべくハードルの低いサービスから始めて、そこで相談窓口とヤングケアラーとご家庭がつながり、信頼関係が築かれていくと、家に入ってくるようなサービスも受け入れやすくなってくると思います」

本人が声をあげにくい「ヤングケアラー」。
周りの大人たちが気づき、信頼関係を構築しながら、少しずつでも支援を進めていくことが必要です。


■自分で気が付くのが難しい「ヤングケアラー」 周りの大人たちが気づき声をかけてあげることが効果的

自治体支援のどのような部分が課題なのでしょうか。

【関西テレビ 神崎博報道デスク】「ヤングケアラーという言葉を最近よく耳にするようになりました。今回の法改正によって、『ヤングケアラーという人たちがちゃんと支援すべき対象です』と法的に明記されたことで、今まで地域によって支援の格差がありましたが、自治体もその支援に向けて前に進むと思います。一方で、法律で『介護や世話を“過度に”担っている子供、若者に定義される』としていて、“過度に”というところが引っかかります。『自分は過度ではないのでは…』と思ってしまうと、なかなか相談につながりにくくなると思います。ですので、周りにいる大人、例えば学校の先生とか、近所の人が気付くとか、あとはヤングケアラーだと思っている人が、気軽に相談できる窓口や支援が必要になってくると思います」


ジャーナリストの浜田敬子さんはヤングケアラーへの支援のあり方について、このように話します。

【ジャーナリスト 浜田敬子さん】「どうしても日本は、今でも子育ても介護も家族がするものっていう考え方が、非常に根深いんです。だから子供ですら、自分がやらなきゃいけない、お母さんを助けなきゃいけないと思ってしまうんですね。『そうじゃないよ』って誰かが言ってあげる必要があると思います。最初やっぱり、自治体は実態調査が必要だと思います。まず自分の自治体に、どのぐらいヤングケアラーと言われる状態のお子さんがいるのか、そうしないと支援の体制が組めませんよね。なのできちんと調査をするということ、そして支援の体制を整える。これは相談窓口だけじゃなくて、実際はNPOとかNGOの団体に助成をして、やってもらう形が多いので、そういう団体が自分たちの自治体にあるかどうか、ない場合は他でやっているところに来てもらうというのも必要だと思います。さらに、お子さんが声を上げにくい時に、一番気づきやすいのはやっぱり学校の先生だと思います。私がよく取材している経済的困窮の状態のお子さんも、学校の先生がこういう居場所があるからとか、学習支援の組織があるから行ってみたらと声をかけてあげています。そこでそういう場所を知ってから行くという。行政と学校も連携して、学校の先生に勧めてもらうようにしてたりするので、小学校、中学校だと家庭訪問をしているケースも多いので、先生が声をかけてあげるのはすごく効果的かなと思います」

今回の法改正により、周りの大人たちの理解が進むことが、まずは支援の第一歩だと思います。

(関西テレビ「newsランナー」2024年6月7日放送)

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