高齢者にRSVワクチンを接種する佐藤慎二院長=愛知県半田市の乙川さとうクリニックで

■適切な情報基に

 RSウイルス(RSV)は、一般にはあまり知られていないが、高齢者の健康も大きく損なう。特に、肺や心臓などに基礎疾患がある人では重症化しやすい。60歳以上の人向けのRSV感染症のワクチンは今年1月に発売され、接種が始まっている。  「肺の持病があるので、重症にならないように、打っておいた方がいいと思った」。愛知県半田市の乙川さとうクリニックで、RSVワクチンを打っていた同市の女性(80)は、接種の理由を語る。女性は15年前、肺の病気、非結核性抗酸菌症だと分かり、今も経過観察と、ぜんそくの治療でクリニックに通う。持病によって重症化しやすい呼吸器系の感染症を警戒していて、新型コロナウイルスのワクチンは7回接種、肺炎球菌のワクチンも接種済みだ。  佐藤慎二院長(55)は、60歳以上で肺などに基礎疾患のある人には、ワクチンの存在とその効果を伝え、接種するかどうかを判断してもらっている。「適切な情報を基に、ご自身で選ぶことが大切」と話す。

■発症を大幅低減

 ワクチンは、グラクソ・スミスクライン社が開発した不活化ワクチン「アレックスビー」。妊婦に接種するRSVワクチンと同様に、RSVの感染に欠かせないタンパク質が主成分で、体内で抗体が作られる。その効果を高め、持続させる物質(アジュバント)も添加している。少なくとも1年半は有効だという。  日本を含めた国際的な臨床試験では、ワクチンを接種した60歳以上の人は、偽薬の場合に比べ、RSVによる下気道疾患の発症リスクが83%少なかった。また、心臓や肺、内分泌などの疾患のある人では95%少なくなった。副反応の割合は、偽薬の3割弱に対し、ワクチンは約7割。ほとんどが一過性で、注射した部位の痛みや疲労、筋肉痛が多かった。接種費用は医療機関によって異なり、1回2万5千円前後とみられる。  RSVについて、東邦大医学部の舘田一博教授(微生物・感染症学)は「新生児で重症化するとして注目されてきたが、実は、成人の呼吸器疾患の重要な病原体の一つということが明らかになりつつある」と指摘する。  グラクソ・スミスクラインによると、60歳以上を対象にした調査で、国内ではRSVによる呼吸器感染症で年間約6万3千件の入院が生じ、約4500人の院内死亡に関わっているとの推計が出たという。また、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)や糖尿病、うっ血性心不全などの基礎疾患のある人が、RSVに感染すると症状が重くなりやすく、基礎疾患が悪化するという海外のデータもある。高齢の人ほど、これらの基礎疾患のある人は多く、インフルエンザでも重症化しやすい傾向はあるが、RSV感染症の方が症状が長引くとの報告もある。

■健康寿命延ばす

 「60歳以上で基礎疾患のある人にこそ、このワクチンが必要」と舘田教授。高齢期の入院は、要介護状態になる要因でもあり、健康寿命を延ばす観点からもワクチン接種の意義があると強調した。  成人のRSVワクチンを巡っては、ファイザーが厚生労働省に対し、60歳以上を対象にしたワクチンの製造販売について昨年5月に承認申請。グラクソ・スミスクラインも昨年12月、アレックスビーの50~59歳への適用拡大の承認申請をしている。(佐橋大)


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