ただのほくろと思っていたが、実は皮膚がんだった-。記者は昨年から今年にかけ、目の近くにある患部の切除や皮膚の移植手術などを受けた。治療の経緯や、皮膚がんの見分け方、予防法などを2回に分けて紹介する。 (瀬野由香)  「悪性の可能性があります。生体検査しましょう」。昨年9月、左の目頭近くにあるほくろを取ってもらおうと、軽い気持ちで地元の皮膚科クリニックを受診したところ、思いもよらぬ言葉が返ってきた。  黒いほくろのようなものができたのは5年ほど前。初めは直径3ミリほどだったが、徐々に大きくなり、受診時は8×5ミリになっていた。それまで仕事や育児で忙しく、特に困ることもなかったので放置していた。  約3週間後、検査による診断は「基底細胞がん」だった。表皮の一番下にある基底細胞や毛根を包む組織を構成する細胞から発生。「転移することは99%ない」(担当医)が、放っておくと奥に広がり、骨まで溶かすこともあるという。

◆まず鼻涙管を保護

 まずは眼科で、鼻涙管を保護するためにシリコーンチューブを入れる手術を受けることになった。治療で患部の奥にある鼻涙管が傷ついた場合、涙があふれ出るなどの後遺症が残る恐れがあったからだ。  紹介された大学病院で12月初旬、目の周りの3カ所に麻酔を打ち、上下の涙点からチューブを入れた=図(上)。鼻涙管に狭い部分があり、なかなか通らない。麻酔で痛みはないが、ぐいぐいと押される感覚があり、医師たちが試行錯誤する会話も聞こえた。チューブが鼻涙管を突き破らないかと心配になる。約50分の手術中、緊張して全身に力が入り、ぐったり疲れた。  続いて同月中旬、同じ大学病院の皮膚科で、患部と周辺を切除する手術を受けた。「がんを残さず取りきるため、患部から全方向に2ミリ以上広く取り除く必要がある」と担当医。顔に1センチほどの大きさの穴が開き、シリコーンフィルムとコラーゲンの人工真皮でふさいだ。  病理検査で問題なく切除できていると確認でき、年明けに皮膚の移植手術を受けた。皮弁形成術といい、患部の下の皮膚を一部切って持ち上げ、切除した部分にかぶせて縫った=同(下)。全身麻酔を希望したため、手術はあっという間に感じた。術後に痛みはないが、ガーゼを取って患部を見ると、鼻の左側に縦3センチのV字の縫い痕。生々しく、傷痕が思いのほか大きいこともショックだった。

◆同じ顔の皮膚移植

 手術の前は、患部を切除し、その傷を縫合するだけだと想像していた。だが、担当医によると、円形の傷をそのまま縫うと、皮膚が不自然に引きつって、術後の見た目が悪くなってしまう。「なるべく顔のしわに沿って目立たないように工夫している」という。  また、皮膚移植というと、お尻や太ももなど目立たない部分から皮膚を移すものかと思っていたが、「色の違いが目立ってしまうため、同じ顔の部分から移植する」のだという。  今年2月に抜糸し、移植した皮膚は問題なく定着した。だが、傷を治そうとする力で皮膚が必要以上に盛り上がってしまい、ステロイドの注射を打ったり保護テープを貼ったりして症状をおさえた。  当初は、患部を切除するだけの日帰り手術で済むと思っていた。だが結局、眼科と皮膚科で計3回の手術を受け、計2週間近くも入院することになった。  縫い痕の赤みは少し良くなったものの、今もある。「傷痕が目立たなくなるまでに5、6年かかる」(担当医)という。だが、放っておいたら、さらに進行する恐れがあった。ひとまず、がんを取り切れたことに安堵(あんど)している。


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