医療やケアに関する意思を書き込む書面のサンプル

 自宅で高齢の祖母が心臓の苦しさを訴えたため、救急車を呼んだところ、病院で看護師から「延命治療しないとサインしたなら、救急車を呼ばないで」と言われた-。そんな投稿が、読者から寄せられた。祖母が過去に入院した際、延命治療を望まないという趣旨の書類に、家族がサインしていたからだった。では、こうした場合、どうしたらいいのか。専門家らに取材した。 (熊崎未奈)  投稿者は愛知県の女性(56)。高齢の祖母が救急搬送された大学病院で、看護師に「延命治療をしないとサインしたなら、救急車を呼ばないで」と強い口調で言われたという。祖母は3~4年前の入院中に容体が悪化し、高齢だったこともあり、家族が代わって延命治療を望まないと署名。だが、その後回復して自宅で元気に過ごしていた。  女性は「サインした以上、苦しがっている家族を救急車も呼ばずに見ていろということなのでしょうか。高齢でも体調が回復することもあります。医療機関の決まりがあるとしても、もう少し言葉の配慮があってもよいのではないかと思いました」と不信感をつづった。  そもそも、延命治療を希望しないと決めていたら、救急車を呼んではいけないのだろうか。救急医療に詳しい中京病院副院長の真弓俊彦さん(63)は「呼んではいけないわけではない」と強調する。すぐに適切な処置をすれば回復する場合もあるからだ。  とはいえ、一般市民が病状を判断するのは難しい。まずはかかりつけ医に連絡して判断を仰ぐのが望ましいという。「緊急時は誰でも焦る。普段から、どの順序でどこに連絡をするかシミュレーションしてほしい」と呼びかける。  一方、現状では、本人が延命治療を望んでいない場合でも、救急車が呼ばれるケースは少なくない。  真弓さんは「本人も家族も医療者も、誰もハッピーじゃない状況になる可能性がある」と危惧する。例えば、心臓マッサージを望まない患者でも救急車の要請があれば、救急隊は法律上、救命措置をする義務がある。本人が望まない処置に家族や医療者が葛藤することも。「救急車という限られた資源を使う意味でも、看過できない課題。それぞれの立場で備えておけば改善できる」と話す。

◆書面のみで判断せず

 私たちにできる備えとは何だろうか。愛知県がんセンター緩和ケア部長の下山理史さん(53)は、病気などで自分の意思が示せなくなったときにどのような医療やケアを望むのか、話し合っておくことが大事と言う。無理に話す必要はなく「意識がなくなった際にしてほしいこと、してほしくないことなど、まずは想像できる範囲でいい」。病気になってからではなく、著名人の訃報などを機に「自分ならどうしたいか考え、話し合ってみてほしい」と話す。  一方、下山さんは医療者側の理解不足も指摘する。終末期に望む医療などについて、本人が医療者らに支援されながら家族と話し合う取り組み(アドバンス・ケア・プランニング、ACP)は近年、医療現場でも重視されている。だが実際には、心肺蘇生や人工呼吸器の装着の希望を確認することだと誤って捉えられ、その話し合いや書面の記入にとどまることも多いという。  書面のみで判断し、患者の意向が尊重されないことはあってはならないとし、「時間がたてば、意思も体調も変わるもの。一度書面にして終わりではなく、どういう生き方をしたいのか、本人と家族、医療者が繰り返し話し合うことが大切だ」と話す。


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