消化管に炎症が起こる潰瘍(かいよう)性大腸炎やクローン病があっても、市販のお菓子を楽しみたい。患者たちのそんな願いにこたえる「お菓子図鑑」が、このほど完成した。市販の220品目について、間食の際の目安となる「脂質5グラム」の相当量を紹介している。国内の菓子メーカー8社の協力を得て、武田薬品工業がつくった。

 表紙の挿絵は、イラストレーターのカメダさんが担当した。自身も、2017年に診断を受けたクローン病の患者だ。

カメダさんが表紙のイラストを担当した「IBDream お菓子図鑑」

 高校生のころから、異様な便意に悩まされてきた。クラブ活動中も授業中も、ひんぱんに便意やガスがもよおしてきて、トイレに駆け込む日々だった。大学生になると、症状は徐々に悪化。ひどい下痢や下血に悩み、ある日熱が出て医療機関を受診した。いまから思えば、すでにクローン病を発症していたのかもしれない。でもその時は医師に「風邪にはよくあることだから」と言われ、「大丈夫なんだ」と思い込んだ。

お尻の痛みで夜も眠れず…肛門科へ

 ところが、社会人になっても、状況はいっこうに良くならなかった。ある日、お尻の痛みで夜も眠れず、意を決して肛門科のクリニックを受診すると、「これは痔ではない。大きな病気を覚悟して」と言われた。すぐに、専門病院を受診。検査の結果、炎症性腸疾患(IBD)の一つ、国が指定する難病のクローン病と診断された。ショックだった。でも、「これまでのことは、これだったのか」と、すとんと腑に落ちた。

 炎症を繰り返してぼろぼろになった腸を、20センチほど切除する手術をうけた。それから、飲み薬と注射による治療を続けている。

 手術を経て、おなかの症状は落ち着いている。ただ、悲しかったのは食べ物のこと。脂っこいものや、乳製品など、腸に負担がかかる食べ物を控える生活がはじまった。

 手術直後は、大好きだったハンバーガーショップの看板を見ては「もう食べられない……」と涙が出た。チョコレートも、薄く刻んだひとひらを、恐る恐る食べた。

わがままなあの子をマンガに

 自分の腸は、なんてわがままなんだろう。腸をモチーフにしたキャラクター「チョウ=チャン」を思いつき、日常生活の「あるある」をコミカルなマンガにしてSNSで発信。すると、患者やその家族たちから反響が来るようになった。

カメダさんが考えたキャラクター「チョウ=チャン」。「わがままだけど、憎めない」存在だ

 SNSの活動がきっかけで、20年度から、武田薬品工業が立ち上げたIBDの啓発活動に協力している。

 今回、お菓子の図鑑の表紙のイラストを担当した。同じビスケットでもベージュ色に濃淡をつけ、できるだけカラフルに、明るい気持ちになれるように工夫した。

 「いつも、お菓子のパッケージの裏を見て自分で計算していたけれど、これは便利」とカメダさん。「少し気をつければ、こんなにいろいろ食べられるんだ、と伝わるとうれしい」

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 「IBDreamお菓子図鑑」は、ビスケット、チョコレート、スナック、米菓、キャンディーの全5編。市販のお菓子220品目を紹介する。

 監修は、東京医科大学病院・管理栄養科長の宮澤靖さんが担当した。一日の間食の目安になる「脂質5グラム」に相当する分量を調べた上で、「3分の1袋」「3粒」などとわかりやすく表記した。腸に負担がかかる可能性がある食物繊維、辛いスパイスなどを多く含むものは除外したという。

 宮澤さんは、「患者さんご本人が、体調のいいときに自分へのご褒美としておやつを食べたいときや、親御さんがおやつを選ぶときなどに活用して欲しい」と話す。

 お菓子図鑑は、武田薬品工業のHP「IBDステーション」(https://www.ibdstation.jp/ibd-intheirshoes/workshop/sweets-book/)から無料でダウンロードできる。

「IBDreamお菓子図鑑」のチョコレート編の表紙。

<炎症性腸疾患(IBD)>

 腸などの消化管の粘膜に炎症が起こる、原因不明の病気。潰瘍性大腸炎とクローン病がある。発症年齢は若く、10~20代が多い。国の難病に指定されていて、国内の患者数は計約24万人。診断に結びついていない人も多くいると考えられている。

 近年、治療薬が進歩しており、症状が落ち着いている「寛解」を維持できるようになってきている。(鈴木彩子)

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