■開園から68年の「小さな遊園地」は“昭和レトロ感”全開で注目!
北海道の人気観光地・函館で、長年、地元の人に愛され続けている小さな遊園地があります。
観覧車にメリーゴーランド、お化け屋敷などのアトラクションが、コンパクトな園内に並んでいます。
いまから68年前の1956(昭和31)年5月に開園した遊園地『函館公園 こどものくに』です。
入園料は無料で、各アトラクションの利用料は1回350円と、気軽に親子で楽しめる地元の遊び場。そんな“ご当地”遊園地の存在が、数年前からSNSなどを通じて、全国的に知られるように…。圧倒的な“昭和レトロ感”が漂うビジュアルで話題に(「函館公園 こどものくに」)
園内に漂う圧倒的な“昭和レトロ感”に…、アトラクションが放つ“映え”のオーラ!春は、満開の桜が、さらにビジュアルを盛り上げます。“100万ドルの夜景”で知られる函館山のふもとにある小さな遊園地
函館を旅するなら、絶対に立ち寄りたくなる“超穴場スポット”。開園から68年となった小さな遊園地は、ある家族が代々守って来ました。
■4代目園長と家族が守る“映え感”が漂うアトラクション
「函館公園 こどものくに」4代目園長 加藤健一さん(54)
「祖父からの代々受け継いできた、伝統的なものなので大切にしています。昔の機械は、いまでもメンテナンスをしたら、しっかり直りますから。とにかく安全を心がけてやっています」
加藤健一さんの祖父が開園して、祖父の弟、そして健一さんの父を経て4代目の園長を健一さんが受け継ぎました。(左から)長男の妻 京加さん・園長の加藤健一さん・長男 大地さん・健一さんの妻 智美さん・次男 周さん
『函館公園こどものくに』を代々家業としている加藤さん一家。いまは、健一さん夫妻をはじめ、長男・大地さん夫妻、次男の周さんの5人と、アルバイトの従業員が日々の運営を担っています。
加藤家の長男・大地さんは、いま25歳。遊園地全般を管理するゼネラルマネージャーです。そんな大地さんのお薦めアトラクションが…。
68年前の開園当初から人気という「スカイチェアー」。柱から伸びるアームが、適度なスピードで回転し、空を飛ぶ感覚を楽しめるブランコです。
4代目園長の長男 加藤大地さん(25)
「“スカイチェアー”の骨組みは、1956年の開園当時のままです。これだけの古さで、このサイズ感は(全国でも)なかなか珍しいと思います」
入園無料で、アトラクションはすべて1回350円で楽しめる(「函館公園 こどものくに」)
決して絶叫系ではない、何とも言えない“ユルさ”が、この遊園地の魅力。定期的なメンテナスを欠かさず、開園以来、ずっと現役です。
続いても、圧倒的な昭和を漂わせているアトラクションの「メリーゴーランド」。懐かしさに溢れる「メリーゴーランド」は開園当時のまま
木馬のデザインや色彩、機械的な構造も含め、68年前の佇まいを残したそのビジュアルは、“映えスポット”の一つです。
1960(昭和35)年の画像と比較しても、木馬のデザインは、昔も今もほとんど変わっていません。
幼い頃の遊び場は、実家が営む遊園地だった大地さん。その大地さんに、強烈なインパクトを子ども心に残したというのが、今も親子連れに人気が高い「ロータリーチェアー」なんだとか…。
4代目園長の長男 加藤大地さん(25)
「小さいころに乗った思い出があって…。すごく急角度で曲がるカーブがあって、そこで強い遠心力がかかるんです。子どものころは結構、ビビりだったので怖かったです」親子連れにいまも人気の「ロータリーチェアー」(写真右は大地さん)
いまどきのアトラクションに比べれば、決して派手な動きではありません。それでも、子どもの心を掴んでやまない“隠れた絶叫マシン”のようです。
主なアトラクションは16施設。その多くが“昭和”から使われ続けてきたものばかり。なかでもシンボル的な存在が、70年以上前に作られた観覧車です。
■小さな遊園地のシンボル“日本最古の観覧車”は国の有形文化財に…
4代目園長の長男 加藤大地さん(25)
「日本最古の観覧車です。国の有形文化財にも登録されて、角形のホイールは74年前のまま使っています」
直径8メートルの観覧車に8台のゴンドラ。1周3分45秒という超コンパクトサイズです。1950(昭和25)年に完成した“日本最古の観覧車”は、いまも元気に活躍する現役です。国の有形文化財に登録されている“日本最古の観覧車”
もとは函館市の隣り、七飯町の大沼国定公園に設置するため、74年前に作られました。その後『こどものくに』が開園する際に移設。2019年に国の「有形文化財」登録を受けたことでメディアの関心を集め、ネットでも話題になりました。
埼玉から訪れた70代の女性
「(前に乗ったのは)12歳、小学生のとき…60年前ですよ。楽しかったです。なんかおばあちゃん一人で恥ずかしい」
一般的なカプセル状のゴンドラに比べ、日本最古の観覧車は、かなり開放的な作り。もっとも高い地上10メートルまで上がると、結構スリリングです。
そして、74年前に完成した観覧車を、より魅力的にさせるのが、近くに立つ桜の木。桜が満開になる春は、最高の“映えスポット”と評判なんです。
4代目園長の長男 加藤大地さん(25)
「子どものころ、観覧車から桜を見下ろした記憶が、いまも残っています。ギリギリ手が届かないところに桜の木があって、つぼみが少しずつ大きくなる様子を見るのが、楽しみでした」
■突然、失われた夢…そして“小さな遊園地”に訪れた最大の危機
大地さんの曾祖父が68年前に開園し、父親は4代目の園長。ただ家業を継ぐ気持ちは、まったく無かったと大地さんは話します。別の夢があったからです。
プロテニスプレーヤーになる夢をかなえるため、大地さんは13歳のとき単身、京都に移住。通信制の高校で学びながら、ひたすら練習と試合に明け暮れます。
高校2年生のときには、インターハイの団体戦で全国優勝。しかし、プロを目指して、国内ツアーに参戦する中、アクシデントに襲われます。京都に単身移り住み、プロテニスプレーヤーを目指していた加藤大地さん
4代目園長の長男 加藤大地さん(25)
「テニスのプロで食べていくのが、小さい頃からの目標でした。それが18歳のとき、手首をケガして…ラケットを握れなくなって。テニスを辞めたら、何をすればいいんだという不安ばかりでした」
痛めた手首は、1年にわたる治療やリハビリの甲斐もなく、回復することはありませんでした。そんな人生の目標を見失いかけた19歳の大地さんに、父親の健一さんが「遊園地でアルバイトをしないか」と声をかけたのですが…。
4代目園長の長男 加藤大地さん(25)
「父が毎日“掃除、掃除”と言うんですけれど、すごく汚れていて…掃除を毎日やるのが本当に嫌でした」
『函館公園 こどものくに』の営業は、冬期間を除く3月~11月まで。雨の日は原則"休園"という、決して無理をしないスタイルで、ここまで来ました。営業期間は3月~11月、「雨の日」は原則的にお休み(「函館公園 こどものくに」)
それが2020年。かつてない危機に直面することに…。新型コロナウイルス拡大で、年間の入園者は、それまでの15万人から9万人まで激減。さらに緊急事態宣言を受け、函館公園が閉鎖に。『こどものくに』も営業を休止せざるを得ませんでした。
大地さんが函館に戻り、家業を手伝うようになって2年目の春のことでした。
4代目園長の長男 加藤大地さん(25)
「毎年、桜を観にたくさんのお客さんが来るのに、人が居ない函館公園を見て(父は)“もう営業はできなくなるかもしれない”と漏らしていた」
桜の季節にお客さんが一人もいない遊園地…。開園以来、初めてのことでした。
4代目園長の長男 加藤大地さん(25)
「新型コロナの打撃を受けてから、父と話す機会が増えました。『こどものくに』を残していかなきゃ…という思いも、強く意識するようになりました」
■“小さな遊園”を守るために…加藤さん一家が迎えた開園68年となった春
大地さんは、家業の“小さな遊園地”を守るために動き出します。目標1000万円を掲げてクラウドファンディングを募った結果、1600万円以上が集まり、全国から応援メッセージが数多く寄せられました。「函館公園 こどものくに」4代目園長 加藤健一さん
4代目園長 加藤健一さん(54)
「感謝の気持ちでいっぱい。ここは一生続けていかなきゃならない、守っていかないといけない。(メッセージを読んで)自分たちがどうこうではないと改めて思いました」
プロテニスプレーヤーの夢に情熱を注いだ10代から一転。20代半ばとなったいま、大地さんは、祖父が開園した『こどものくに』を守ろうと、家族とともに懸命に汗を流しています。
開園68年目の今年の春も“日本最古の観覧車”近くの桜の木が、満開になりました。
4代目園長の長男 加藤大地さん(25)
「遊園地を掃除していると、ここが汚いから、こうしたらいいかなと発見することが増えました。小さい仕事が安全管理につながるんだ…と、いまは思っています」
取材に訪れた日、加藤さん一家5人に“家族写真”を撮ることを提案してみました。
4代目園長(大地さんの父)加藤健一さん
「桜の時期は忙しくて、家族5人が揃うことはないのでいい記念になります」
大地さんの母 智美さん
「“家族写真”を撮りたいと思っていたけれど、なかなか撮る機会がなくて…」
大地さんの妻 京加さん
「家族5人で写真を撮るのは初めてだし…私は初参加です」
1956(昭和31)年の開園以来、加藤さん一家が代々受け継いできた、函館の小さな遊園地『こどものくに』。
この先も変わらず“昭和レトロ”の魅力を守りつつ、子どもたちの遊び場として、歴史を刻んでいきます。北海道函館市で代々、家業の“小さな遊園地”を守る加藤さん一家(「函館公園 こどものくに」)
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