障がいのある人たちが生み出すアートの可能性に注目するシリーズ「アート・ミーツ・ハート」です。今回は知的障害と発達障害のある高岡市の16歳、林樹吹(はやし・いぶき)さんです。樹吹さんこだわりのルーティンから生まれる不思議なアートを取材しました。

高岡支援学校・高等部2年生の林樹吹(はやし・いぶき)さん(16)。

母・多恵子さん「私たち起きてきたらこんな感じで、なんかもう制服着替えて書いている感じです」

朝から電卓を叩き、計算式と回答を次々ノートに書いていきます。

Q毎朝やってるんですか?
林樹吹さん「やっています」

Q毎朝何をしているんですか?
林樹吹さん「計算する時…です。計算」

Qいつぐらいから始めたんですか?
林樹吹さん「小学校4年生の時」「2017年の3月20日、日曜日に書きました」

樹吹さんは、妊娠7か月目で体重618グラムの「超低出生体重児」として生まれました。

母・多恵子さん「生まれてきたのはうれしんだけど、これは『おめでとう』なのかって思いました。こんな状態で助かるのかなっていうのが一番心配でした」

生まれてすぐに新生児集中治療室に入院し、退院できたのは半年後。医師からは「ちょっとした風邪でも命とりになる」と言われ、1年間、外出ができませんでした。

母・多恵子さん「何となく外にも出られるようになってきたら、日常の生活がほかの人と一緒の感じで送れるんだないうのがこれぐらいの時に実感できて、よかったなって感じで」

「何らかの障がいが残るかもしれない」と言われ、2歳の時に、知的障害と発達障害のひとつ「自閉スペクトラム症」と診断されました。

全部正しい数式なのに、ワイルドな感じ…

小さい頃からこだわりが強く、自分のルーティンが崩れるとパニックに陥ることもあるといいます。

父・史樹さん「こういうメモひとつでもなくなったら『あれ、どこいった』って言うんですよ。私たちにしてみれば、それ何って話なんですよ。捨てられないんですよ、うかつに」

母・多恵子さん「面倒なことがないように」

父・史樹さん「そこから始まって、でもそのうちにこれ何かになるんじゃないかって。彼の自己表現なんですよね、ひとつの」

【去年7月・ばーと◎とやま】
林さんたちは、去年7月、樹吹さんのノートを見てもらいたいと、「県障害者芸術活動支援センターばーと◎とやま」に持ってきました。

ばーと◎とやま・米田昌功さん「何の数かってなんか予想つきます?」

母・多恵子さん「電卓打ちながら、計算式とか計算ばっとして、それを書いたりとか」

ばーと◎とやま・米田昌功さん「あ、合ってる、あ、合ってる」

ばーと◎とやま・米田昌功さん「なんだろう、全部正しい数式なのにワイルドな感じは。野生の数式」「これすごい、おじさんこの作品すごい好きなん。貸してもらってもいい?いろんな人に見てほしいなと思って」

樹吹さん「いい」

ばーと◎とやま・米田昌功さん「ありがとう。よろしくお願いします」

Q飾ることになったのどう思いますか?
樹吹さん「うれしい。あとで家に持ってく」

母・多恵子さん「あ、でもうれしかったんだ、よかった」

とってある作品をすべて含めて、この作品…

樹吹さんが生まれ育ったのは、高岡市伏木地区にある「要願寺」です。元日の能登半島地震の影響で寺は液状化で最大11センチ傾き、住居としては使えなくなりました。

母・多恵子さん「1月1日に避難してずっと帰ってなかったら、ここのうちに帰りたいというもので、1回だけ1晩泊ったんです、ここに。それからはもう泊まるとは言いませんでしたね、気持ち悪かったんだと思います」

父・史樹さん「伏木は地震で傾いたって、ずっと自分で自分に言い聞かせるように言ってました」

被災後、お寺を整理していたところ、小学4年生から書き溜めた大量のノートが見つかり、障がいのある人の作品を集めた美術展で展示されることになりました。

アート・ディレクター・土居彩子さん「小さい頃からずっと見守ってきたそのご家族のまなざしっていうのが、これをもうすでに小学校の頃からとっといてあるとか、そういうことにも全部表れていて、そういうのまるっと全部含めてこの作品だなと思いますね」

アートであってもなくても、電卓叩き…

富山市中央通りにある美術館ギャルリ・ミレーで開かれている「ぶりゅっととやま!みられ展」。

県内の障がいのある作家13人の自由な発想で作られた個性豊かな作品が展示されています。樹吹さんのこだわりのルーティンも「アート」にー。選び抜かれたノート7点が「作品」として展示されました。

林樹吹さん「こんにちは」

ノートに書かれているのは計算だけではありません。体重や全国各地の気温など、さまざまな数字へのこだわりが詰まっています。

数字の上にどんどん数字を重ねて真っ黒になったページも…。

林樹吹さん「体重何キロって書いた、書いた、書きました」

Q自分の作品見てどうですか?
林樹吹さん「かっこいいです」

母・多恵子さん「ゴミじゃないんだ、大事な表現なんだなっていう風にこっちの意識はすごく変わりました」

父・史樹さん「彼が今までやってきたことを今日もやってるっていうのを見て、なんか愛おしいっていうと言いすぎかもしれないですけど。そういう意味では見方が変わったかもしれないですね」「まあ、私たちより彼の方が生活きちっとしてるんですよ」

母・多恵子さん「そうなんです、早いんです」

「アート」であっても、なくても、樹吹さんはきょうも変わらず電卓を叩き、数字を書き続けています。

林樹吹さんの数字だらけの不思議なノートは、7月30日までギャルリ・ミレーの美術展で展示されています。

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