日本の男子110メートル障害は今、2人のハードラーが抜きんでている。順大出身の泉谷駿介と村竹ラシッド。昨年、ともに13秒04の日本記録をマークした。世界でも昨季6番目とハイレベルだ。

 2日の布勢スプリント決勝で、この2人に次ぐ存在へと名乗りを上げた選手がいる。同じく順大の現役3年生、阿部竜希だ。

  • 山縣亮太、いち早く五輪断念した背景 「暗中模索」の先にめざすのは

 今季好調だったスタートがかみあわず、4台目までハードルにぶつかった。だが、中盤からは実力者の中国選手2人に食らいつく。スムーズにハードルを越え、日本選手トップの3位でゴールした。

 13秒35。昨季からは約0.3秒も自己ベストを更新する、学生歴代4位の記録だ。

 飛躍のきっかけは、昨夏の腰椎(ようつい)分離症だった。

 191センチの高身長の割には、筋力が強くなかった。フィジカルトレーニングを一から見直した。

 取り組んだのは、体の中心から足を動かすトレーニング。肋木(ろくぼく)にぶら下がったり、寝転んだりした姿勢で行う。順大の山崎一彦コーチが考案した6種目ほどに取り組んだ。

 効果はてきめんだった。

 以前のような足先だけの走りではなく、体全体を使えるようになった。苦手だったスタートは改善。冬季練習ではほとんどハードルを跳ばなかったのに、シーズンが近づいて跳び始めると、ハードルにぶつかる回数も減っていた。

 今年2月にはオーストラリアへの海外遠征を経験した。普段の練習でも村竹と競い、以前よりは差が縮まったと自覚する。「日本の選手なら、もうあとは泉谷さんぐらいしか怖くない」。そう自信を持てるほどメンタルが強くなった。

 パリ五輪の代表は泉谷がすでに内定しており、残り2枠。月末の日本選手権の結果次第では、世界陸連の出場ランキング入りも視野に入る。

 それでも、狙うはその先。参加標準記録の13秒27を突破し、2位以内に入って内定を勝ち取ることをめざす。身近に世界を知る先輩がいるからこそ、「勝負するには標準記録を突破しないと」と志は高い。

 山崎コーチによると、現在の課題はハードリングの時間が長いことだという。その改善に取り組んでいる途中で、克服すればさらなるタイムの更新も期待できる。

 昨季までは遠い存在だった先輩と肩を並べ、夏の大舞台に立てるか。

 阿部は言う。「大谷(翔平)選手の言葉を借りるなら、もう憧れていてはいけない。2人は目標です」

 可能性を無限に秘めた大型ハードラーが、世界の切符をつかみに行く。(加藤秀彬)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。