試合前にスタッフに指示を出すFC伊勢志摩の小倉隆史理事長=三重県伊勢市の伊勢フットボールヴィレッジで2024年4月29日午後2時15分、村社拓信撮影
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 「モンスター」といえば最近はプロボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥選手(大橋)の代名詞となっているが、かつてサッカー界で「レフティー・モンスター」と呼ばれたストライカーが故郷に戻り、将来のJリーグ入りを目指すFC伊勢志摩(三重県志摩市)で理事長を務めている。チームは今季の東海社会人リーグ1部でホームの開幕戦、アウェーでの第2戦で連勝し、好スタートを切った。

 開幕戦は4月29日に迎えた。伊勢市・伊勢フットボールヴィレッジで矢崎バレンテ(静岡)と対戦。試合開始早々に先制点を許し、一度は追いついたものの、再び失点した。

決勝点を挙げて喜ぶFC伊勢志摩の選手たち=三重県伊勢市の伊勢フットボールヴィレッジで2024年4月29日午後4時2分、村社拓信撮影
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 だが、前半終了間際に追いつくと、後半には宮寺優斗選手のゴールで勝ち越し、勝利を引き寄せた。金守智哉監督は「開幕戦で選手も硬くなり、しんどい試合になったが、最後まであきらめず走り切った」と評価した。

 チームはリーグ優勝とJFL(日本フットボールリーグ)昇格を目指している。宮寺選手は「今年はオグさんが覚悟を持っていると思う。オグさん、カナさん(金守監督)のためにも、優勝したい」と語った。

 監督とともに名前を挙げた「オグさん」とは、四日市中央工高で全国高校選手権優勝を経験し、Jリーグや日本代表でも活躍した小倉隆史理事長のことだ。2012年に発足したクラブで18年末に理事長に就任し、最近3シーズンは監督を兼任してきた。

 「クラブの顔」でもある小倉理事長は今季、再びチームの運営に専念する。「いろんな部分でクラブとして変えていかないと、もう一つ上(のカテゴリーに昇格する)、ということは難しい。監督として現場にいると、理事長業がおろそかになってしまう部分があった。本気で上に行きたいと思い、(理事長に)専念して、クラブとして組織を大きくすることに集中していきたい」と意図を語った。

試合後にサポーターと言葉を交わす小倉理事長=三重県伊勢市の伊勢フットボールヴィレッジで2024年4月29日午後4時31分、村社拓信撮影
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 言葉通り、開幕戦では試合前から受付に自ら立ち、観客の案内のほか、自治体の首長やスポンサーが訪れると走ってあいさつに向かった。細かいところにも目を向けてスタッフに指示を出す。一方で、試合中は心配そうにピッチに目をやり、勝利を収めるとほっとした様子でグラウンドに下りて、サポーターたちと言葉を交わしていた。

 Jリーグ入りという大きな目標を掲げ、クラブとしても成長を目指す。「一筋縄では行かない。僕がしゃかりきに頑張ったからできるというものでもない。行政を含めて応援してくださる方々や地域の方々の間の『上がろう』という空気感など、いろんなものがまとまってこないと難しいと思う。結果も出しながら、求めていければ」と語った。

 今季のユニホームには伝統工芸である伊勢型紙で使われる文様があしらわれている。鈴鹿市出身の小倉理事長は、父が伊勢型紙の職人だったという。「地元のために何かできるか、プラスになれば、と思ってやっている」と新たなやりがいを感じながら、チームを支える。【村社拓信】

Jリーグ入り目指す県内のチーム

 Jリーグは1993年に開幕してから30年が過ぎ、J1からJ3まで60クラブまで増えた。だが、三重県は福井、滋賀、和歌山、高知、島根の5県とともにJリーグのクラブがない。かつては実業団のコスモ石油を母体に四日市市を本拠地にしてJリーグ入りを目指す動きもあったが、最終的にはプロ化を断念した。

 ただ、FC志摩の小倉隆史理事長は「サッカーは盛んなところだと思う」と県内のサッカー熱を信じる。特に四日市中央工高は「四中工」の名で知られ、小倉理事長が3年生だった1991年度大会で帝京高と同時優勝し、当時2年生だった浅野拓磨選手(ドイツ・ボーフム)を擁した2011年度大会など準優勝も3回した。

 県ではヴィアティン三重(桑名市)とアトレチコ鈴鹿(鈴鹿市)の2チームが、FC伊勢志摩よりも一足先にJFLに所属し、Jリーグ入りを目指している。両チームはともに県北部が本拠地で、また、女子サッカー・なでしこリーグ1部所属の伊賀FCくノ一三重は伊賀地方に拠点を置く。小倉理事長は「南からJリーグのチームができることを考えると、意義があることだと思う」と、県南部を盛り上げながら、高い目標に向けて突き進む。【村社拓信】

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