<取材ノート>
 熱戦の記憶が刻まれたプールに2年半ぶりに足を踏み入れた選手たちは皆、誇らしげに胸を張っていた。先月24日、パラ競泳のパリ・パラリンピック代表内定選手の壮行会が、競泳のパリ五輪代表選考会決勝前に初めて開かれた。会場は、東京パラが行われた東京アクアティクスセンター。競技のデモンストレーションもあり、参加したパラ選手たちは「幸せな時間だった」と喜んだ。

◆金メダル獲ったプールで泳ぐのは東京パラ以来

 大型スクリーンも活用して選手一人一人を紹介した後は、身体障害と知的障害の選手計6人が50メートルを得意の泳法で泳いだ。「かっこ悪い泳ぎはできない」と鼓舞し合って臨んだといい、東京パラで金を含むメダル5個を獲得した鈴木孝幸(ゴールドウイン)は、非公認記録ながら自由形で37秒44の自己ベストをマークした。客席ではパラの代表選考会が行われていると勘違いする人もいるほどの白熱ぶり。無観客だった東京パラとは異なり、歓声を浴びて泳ぐ経験は選手たちの糧になったことだろう。

東京パラリンピック男子100メートルバタフライ決勝で泳ぐ木村敬一選手=2021年9月3日、東京アクアティクスセンターで

 この会場でパラの大会が行われる機会はほとんどなく、全盲クラスのエース木村敬一(東京ガス)は東京パラ以来初めてここで泳いだ。100メートルバタフライで念願の金メダルを手にした2年半前を思い出し、「人生の一番の瞬間を迎えた舞台でまた泳がせてもらえた」と感慨にふけった。  日本パラ水泳連盟によると、昨年秋ごろに日本水連から「多様性と調和」を掲げた東京五輪・パラリンピックのレガシー(遺産)の一環として企画が持ちかけられた。今夏のパリ大会は「平等」を表現するため、初めて五輪とパラで共通のエンブレムが採用される。木村は「五輪とパラの距離が近づいていくのはうれしい。自分たちも五輪選手と同じくらい頑張って競技力を高めないと」と口元を引き締める。  今月7日まで開かれた英国選手権では、五輪とパラの代表選考会が一緒に行われた。いつか、日本でも―。今回の壮行会を受け、競泳ファンや現役アスリートからそんな声も上がる。一歩ずつ進んだ先に、そんな光景が当たり前になったらいい。(兼村優希) 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。