全国大学選手権に30年ぶりに出場する青山学院大ラグビー部の主務、茂木里紗さん(右)=提供写真

 青山学院大ラグビー部が「大学日本一」を争う全国大学選手権に30年ぶりに出場する。14日午後3時開始の初戦(3回戦)で関西の強豪・京都産業大に挑む。

 今年が創部100周年の青学大。躍進の舞台裏で、「2代目」の女性主務が奮闘している。【杉田寿子】

 12月中旬、青学大の青山キャンパス(東京都渋谷区)の校舎に、ラグビー部の大学選手権出場を祝福する懸垂幕が掲げられた。

 幼稚園から青学に通う主務の茂木里紗さん(4年)は「人生のほとんどを青山キャンパスで過ごしていて、ここに自分が関わったラグビー部の幕が飾られることになるなんて。本当に想像していなかった」と話す。

早稲田大戦で入場する青山学院大フィフティーン=群馬県太田市の市運動公園陸上競技場で2024年10月12日、提供写真

 今季の青学大はトップリーグで活躍した糊谷(のりや)浩孝ヘッドコーチ(51)らがコーチ陣に加わり、強化に本腰を入れた。

 強豪校が集う関東大学対抗戦Aグループで、優勝経験のある筑波大を破り、さらに1日の立教大との最終戦も35―32で競り勝ち、3勝4敗で5位に食い込んだ。優勝した早稲田大、2位の帝京大、3位の明治大、4位の慶応大に続いて全国への切符をつかんだ。

 主務の役割は、競技団体との打ち合わせや公式戦・練習試合のセッティング、遠征スケジュール管理や宿泊先の手配、コーチと選手との橋渡しなど、多岐にわたる。

 2019年のワールドカップ(W杯)日本大会をきっかけにラグビーに夢中になり、大学でマネジャーとなった茂木さんは、最高学年の今年、主務に立候補した。2学年上の宮下雅子さんに続き、青学大では2人目の女性主務となった。

全国大学選手権に30年ぶりに出場する青山学院大ラグビー部の主務、茂木里紗さん(中央右)=提供写真

 大学選手権の京産大戦は、和歌山市の紀三井寺公園陸上競技場が会場だ。宿の手配が必要となるが、対戦校とかぶるのはNG。競技場の近くで、30人近くが泊まることができ、管理栄養士が提示するメニューに沿った朝食と夕食を「できる範囲で」提供してくれる――。

 そんな希望をかなえてくれる宿泊施設はめったにない。先輩たちが残してくれた「宿リスト」を頼りに、かたっぱしから連絡して宿泊先を確保した。

 そして、主務の最大の仕事は「コーチ陣と学生たちの“間”になること」だと茂木さんは言う。

 チームを強くしたいコーチ陣は練習時間を増やしたい。一方、学生たちは授業にも出席しなければならない。その間に立ち、双方の思いに耳を傾けて調整する。

選手と学生スタッフが協力し合い、青山学院大ラグビー部は30年ぶりの全国大学選手権出場を決めた=提供写真

 「選手たちが何でも相談してくれるのはいいことだけど、悪く言えば、本当に何も考えずに意見を言ってくることもある。気持ちはわかるので、うまく諭しながら、コーチに伝えていた。ストレスになることもあります(笑い)」

 ストレス解消は「家で一人、シクシク泣いたり、先輩たちと食事しながらいろいろ聞いてもらったり。試合帰りの車の中で、学生スタッフ同士でワーワー言い合って、楽しく発散していました」と振り返る。

 今季は授業の開始時間に配慮し、朝の練習は1時間半早めて午前7時半スタートにした。学生スタッフも都内などから相模原市のグラウンドに通った。練習が終われば授業のため、約1時間半かけて表参道の青山キャンパスに向かう。

 始発に近い電車に乗らなければならない学生スタッフもいるのを見かねて、コーチが「担当日を分担しては」と提案したものの、茂木さんたちは毎回必ず練習に参加した。

 「『なんのためにラグビー部に入っているのか』と考えたら、分担するという選択肢はなく、活動日に同行していないというのは違和感があった。チームの活動として選手が来ているなら、私たちも授業がない限り一部員として選手と同じ行動をすべきだと思う。顔を合わせることで生まれるコミュニケーションもある」と、茂木さんは語る。

全国大学選手権に30年ぶりに出場する青山学院大ラグビー部のアシスタントコーチ、河本明哲さん=提供写真

 今季からアシスタントコーチに就任した河本明哲(あきのり)さん(37)は「茂木さんは『熱いひと』という言葉がぴったりです」と話す。

 「立大との試合前日。もう最後は気持ちだろうと、ミーティングで『茂木さん、いい機会だから思っていることを全部言いな』と話したら、ちょっとウルウルしながら『勝ちたい』と、みんなの前で言ったんです。茂木さんの本音を聞いた時に、チーム全員のエネルギーが湧いてきた。それが、試合でも発揮できたんじゃないかと思います」

 青学大が過去に大学選手権に出場したのは1993、94年度の2回。いずれも初戦で大東文化大に敗れ、16強だった。今大会で初戦を突破すれば過去最高の8強入りとなり、準々決勝では大東大とぶつかる。

全国大学選手権に30年ぶりに出場する青山学院大ラグビー部の主務、茂木里紗さん=提供写真

 茂木さんも「(初戦に)もちろん勝ちたい。正直、楽しみな部分の方が大きい。対抗戦という枠の中だけでしかやってこなかったチームが、どれだけ全国という舞台で戦えるのかと期待しています」。

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