スタート直後、左右にある傾いた台を斜め前に飛んでいく「ジャイアントステップ」=徳島県吉野川市で2024年4月20日、山本芳博撮影

 「オブスタクルスポーツ」という聞き慣れない競技が、2028年のロサンゼルス五輪から近代五種の一つの馬術に代わって採用される。今年4月には一般社団法人「日本オブスタクルスポーツ協会(JOSA)」(東京)の公認コースが国内で初めて徳島県吉野川市に開設され、デモ大会に53人が参加した。一体、どんなスポーツなのか?【山本芳博】

 オブスタクルは英語で「障害物」の意味。全長100メートルのコースに、飛ぶ▽手でつかむ▽登る▽跳ねる▽城壁に見立てたマットを駆け上る▽ロープを使って池に見立てたマットを飛び越える▽屋根に見立てたマットを走る――など、忍者の動きさながら12種類の障害物があり、全て乗り越えてゴールまで走りきりタイムを競う。最大の難関は高さ4メートルの反り返る壁。壁を登り切れなかったり、障害物から落下したりして、2回失敗すると失格となる。

ロープを手でつかんでターザンのように飛ぶ「ターザンスイング」=徳島県吉野川市で2024年4月20日、山本芳博撮影

 TBS系のスポーツエンターテインメント番組「SASUKE(サスケ)」をベースに、米国で人気番組となった「アメリカン・ニンジャ・ウォリアー」をヒントに生み出された。18年に国際的な運営統括組織「国際オブスタクルスポーツ連盟(FISO)」がスイスに設立され、JOSAを始め世界各国の100以上の競技団体が加盟している。

 一方、近代五種は「近代五輪の父」クーベルタン男爵が考案した伝統ある競技で、射撃▽フェンシング▽水泳▽馬術▽ランニング――を1日でこなす。19世紀のナポレオン時代、フランス軍将校が戦果を報告するため馬で敵陣に乗り込み、銃と剣で敵を倒し、泳ぎ、走って任務を遂行したという故事を競技化したとされ、男爵は「スポーツの華」と称した。

 だが、21年の東京五輪で、選手が思うように操れない馬を泣きながらムチでたたいたり、代表コーチが馬を殴ったりして競技への批判が殺到。馬の輸送費など多額の費用負担も問題視され、国際近代五種連合(UIPM)が同年11月、競技の5種目から馬術を除外すると発表した。国際オリンピック委員会(IOC)は23年10月の総会で、28年のロサンゼルス五輪から代わりにオブスタクルスポーツを採用すると正式に決めた。

日本での普及はこれから

 オブスタクルスポーツの強豪国はフィリピンだ。25・09秒の世界記録を持つジェイ・マーク選手がスター選手となり、国内で競技者が増えて盛んになった。公認コースをいち早く導入し、フィリピンナショナルチームも結成している。

 一方、日本では23年1月にJOSAが設立されたが、協会の公認アスリートは山本遼平選手(18)=千葉県=のみだ。競技歴9年で、約32秒で走り抜ける。山本選手は「なじみの深い鉄棒や雲梯(うんてい)のような障害物が組み込まれているので、一目でルールが分かって誰でも参加できるのがオブスタクルスポーツの魅力。日本でも競技人口を増やして盛り上げていきたい」と話す。

手でぶら下がって移動する「雲梯(うんてい)」のような「モンキーバー」=徳島県吉野川市で2024年4月20日、山本芳博撮影

 今年4月には、UIPMの基準を満たした日本初の公認コースとして「オブスタクルスポーツ吉野川コース」が同市の吉野川河川敷近くに新設された。「国内初の公認コースを作り、吉野川市や徳島県を日本や世界に発信したい」と、地元の民間団体が誘致して設置。足元の塗装にセメント・樹脂・土を配合し、跳びはねた時に地面からの反発を抑えてひざなど選手の体への負担を軽減するよう工夫した。海外では大会に合わせて仮設のコースを作ることが多く、常設コースの設置は世界でも珍しいという。

 同コースは休日を中心に一般2000円、中高生1000円で開放しているほか、10月19、20両日には日本選手権を開催する。地元関係者は「吉野川市が日本のオブスタクルスポーツの『聖地』と呼ばれるよう、今後も活用法を模索したい」と話す。

4月に開催された国内初のデモ大会

 JOSAは4月20日、「オブスタクルスポーツデモ大会2024in吉野川」を同コースで開催し、国内外から11~51歳の53人が参加した。選手たちは2人ずつ横に並んでスタートし、「ジャイアントステップ」「モンキーバー」「バランスビーム」などの障害物を次々に乗り越えた。

 コースが中盤に差し掛かると、選手たちの息が上がってくる。6個の吊り輪が並んだ「リング」を手でつかんで進み、高さ50センチの網「ネットクロール」の下を地面に這いつくばってくぐり抜け、ボードを手でつかんで進む「クリフハンガー」、ロープを手でつかんでターザンのように飛ぶ「ターザンスイング」を相次いでこなし、最後に高さ4メートルの壁を一気に駆け上がってゴールインした。腕力・脚力・バランス感覚などが同時に求められ、中には体力の消耗でフラフラになりながらゴールを目指す選手もいた。

高さ4メートルの壁を一気に駆け上がってゴールを目指す選手=徳島県吉野川市で2024年4月20日、山本芳博撮影

 上位8人の決勝で52・99秒のタイムをたたき出した同市の会社役員、工藤剛さん(36)は「(テレビ番組の)サスケに出たいと思っていたので、念願かなって思う存分楽しめた。地元に公認コースができ、子どもたちが外で遊んで身体能力を高めるよい機会にもなる」と喜んだ。山形県から参加したスポーツジム経営の荒木優希さん(21)は「オブスタクルスポーツはエンタメ要素も強く、見るのも競技するのも楽しい。大人も子どもも参加しやすいので、日本で普及していってほしい」と話していた。

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