野球しようぜ!
そんなメッセージとともに、大リーグ・ドジャースの大谷翔平が日本全国の小学校に贈ったグラブ。目的の一つは、多くの子どもたちに野球に触れてもらうことだろう。ただ、効果はそれ以外にもあった。
- 職員玄関に置かれていた6人分 各校3個の「大谷グラブ」が広げた輪
「なりたい自分になるには、あきらめないでやってみることが大事」
4月30日、東京都港区立本村小学校。約60人の6年生を前に授業を始めたのは、プロ野球の東京ヤクルトスワローズなど3球団で投手として活躍した秋吉亮さん(35)。日本代表「侍ジャパン」で大谷とプレーしたこともある。
野球指導をしながら、今年から都内の小学校で「アスリート講演会」をしている。「小学生のときは補欠だった」と自身の経験談を交え、目標に向かって努力することの大切さを伝える。
授業の助けとなったのが「大谷グラブ」だ。
「一人でも多く野球をやってもらえたらという思いは、僕も大谷くんも同じだと思う」
講義の後は子どもたちに投げ方を教え、校庭でキャッチボールをした。全員がグラブを使えるように回した。
この日、野球をしたことがある児童は数人だけだった。グラブそのものに興味津々といった様子の子どもたちに何が楽しかったか尋ねると、ほとんどが「ボールを捕れたこと」と答えた。
周囲も一緒に盛り上がったのは、ボールがグラブに収まるかを見届ける瞬間。チャレンジして得た成功体験と、周りから褒められたことが喜びにつながっていた。
6年生の担任で、講演会を依頼した豊田茜主任教諭が、胸の内を教えてくれた。
「勉強など色んな競争の中にいる子どもたちは、自分たちのことをダメだと思ってしまうことがあります。色んな大人から教わり、時に褒められ、前向きになってほしい」
鈴木琴葉さん(11)は「キャッチボールは気持ちが通じ合ったようで楽しかった。苦手な算数でとばしたくなる問題も、次はあきらめずに解いてみます」。
大谷グラブが、子どもたちの自信や前向きな姿勢を生むきっかけになった。
秋吉さんは言う。
「授業のキャッチボールは、いわば新しいことをやってみる時間。(野球に限らず)自分のやりたいことを見つけたとき、そこでまたあきらめずにやってくれるとうれしい」
大谷グラブは国内の小学校約2万校に3個ずつ、合わせて約6万個が贈られた。ただ、本村小の山崎高志校長が「多くの児童がいる中、3個の使い道を探すのは難しかった」と明かすように、うまく活用できずに校内に飾られたままの学校もあるという。
大谷の思いを考えても、本村小の子どもたちの笑顔を見ても、やはり使わないのはもったいない。秋吉さんの活動は、ひとつのヒントになる。
秋吉さんは「若い選手やプロ野球のOBが関わることで、子どもたちにとってもいい経験になるはず。活動が広まってほしい」。
講演会の依頼や協力は株式会社「PACE Tokyo」のメール(playball@pacetokyo.com)で受け付けている。(平田瑛美)
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