デビュー戦に挑む植竹玲奈選手=東京都府中市のボートレース多摩川で2024年5月1日、横見知佳撮影

 横浜市出身の新人ボートレーサー、植竹玲奈選手(17)が5日、ボートレース多摩川(東京都府中市)でデビュー戦に挑む。猛スピードでターンし、先頭に躍り出た水上のレーサーに魅せられて志した。「夢を与えてもらった。いつか与える側になりたい」と意気込んでいる。【横見知佳】

 植竹選手は3月に養成所を卒所したばかり。5~9日に開催される「にっぽん未来プロジェクト競走in多摩川」に出場する。

 小学1年から始めた水泳は関東大会に出場する実力があったが、その先は遠く感じた。「オリンピック選手にはなれない」。体を動かす仕事にどうやったら就けるのか。練習をしながら考えた。

 小学4年の夏休みや冬休み、消防士の父、正信さん(50)に連れられ、「職業見学」に出かけた。父の仕事でもある消防センターに行ったり、裁判官や弁護士の仕事を知るために法廷に行ったりした。正信さんは競艇になじみがなかったが、見学の一環で訪れたのがボートレース平和島(東京都大田区)だった。

 ターン位置の近くで観戦していると、落合直子選手が難しいとされている最も外側の6コースからターンで差し込んで1番になった。大番狂わせとなり、観客らが「予想できなかった」と舟券を破り捨てていった光景が目に焼き付いた。「かっこいい」。忘れられない瞬間となった。

 母の和子さん(50)には「事故を起こすかもしれない」と心配された。しかし、感動が忘れられず、小学6年の授業参観で「ボートレーサーになる」と発表して周囲を驚かせた。正信さんは「さまざまな職業を知るのが良いと思ってレースに連れて行ったが、まさかやりたいと言うとは思わなかった」と振り返る。

3度目の受験で合格

 意思を固めた後は、養成所を目指した。バスケ部や陸上部に所属して体を鍛え、応募資格のある中学3年の時に初めて受験した。倍率は20倍以上の狭き門。3度目の応募となった高校1年の冬に合格し、両親が送り出してくれた。

 養成所は福岡県にあり、全国から集まった同期生との寮生活だった。毎朝6時に起床のブザーが鳴り、3分以内に外で点呼がある。日中は操縦や整備を学び、夕食の後は自習し、午後10時に消灯。厳しい日々に何度も弱音を吐きそうになった。「帰ります。教官に申告しよう」。そう思うたびに応援してくれる両親の姿を思い出して踏ん張った。

 ボートの最高速度は時速80キロ。体感速度は120キロとされ、猛スピードでコース内側のターン位置を狙う。ハンドルを切ったあとにレバーを握り加速するが、「怖くて握ることができなかった」。164センチ、50キロと女子選手の中では小柄な方ではないが、激しい動きに耐える力が無く、ボートはなかなか安定しなかった。周囲の選手をまね、繰り返し挑戦して体に染み込ませ克服した。

 憧れは「水上のファンタジスタ」の異名を持つ濱野谷憲吾選手。漫画「モンキーターン」の主人公のモデルになったとされるレーサーだ。外側でもターンで追い上げる姿に「最後まで諦めない姿勢を学んでいる」。5日のデビュー戦は「やっとこの日がきた」と楽しみにしているという。「新人らしく先輩選手に食らいついていくようなターンを見せたい。ベテラン選手にも追いつき、追い越したい」と笑顔のなかに勝負師のまなざしを見せた。

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