約10年半ぶりの歓喜の瞬間だった。ドイツでの挑戦からサッカー・J1浦和レッズに戻った原口元気選手(33)が、10日のサンフレッチェ広島戦(埼玉スタジアム)で復帰後初ゴールを決めた。浦和の「魂」を体現する情熱を胸に、ボールが吸い込まれるのを確認すると全速力で駆け出した。
2―0とリードして迎えた後半41分。前掛かりになった広島の背後にできたスペースを一瞬で攻略した。
自陣右サイドでチアゴサンタナ選手が粘って起点を作ると、中で受けた渡辺凌磨選手がワンタッチで右前方にパスを出し、前田直輝選手が右サイドを疾走。中央をトップスピードで駆け上がっていた原口選手は、前田選手からのパスを丁寧に右足で流し込む。ボールは右ポストに当たり、ネットを揺らした。
「いい場所で待てたのがポイントかなと。一番自分が打ちやすいところで(シュートが)流れもせず、僕の表現では『幅の調整』と言うが、一番いい幅の調整ができたので、そこで勝負あったのかなと。もちろん(前田)直輝のパスも素晴らしかった」
J1での得点は2014年4月26日の柏レイソル戦以来。ゴールを決めた直後の原口選手の行動は、どこか懐かしさを感じさせるものだった。
一目散に駆け出すと、軽々と電光掲示板を跳び越えて、多くのサポーターで真っ赤に染まるゴール裏へ。両手を広げ、胸のエンブレムをつかみ、かみ締めるようにして熱狂を味わった。
その場面を振り返った原口選手は「いや、あの流れで行かないことはないかなと」と小さく笑みを浮かべつつ、「うれしいしホッとしているけど、このままでは終われないので。何度も何度もゴールを決めて、あそこに走っていけるように続けたいなと思う」と語った。
原口選手は浦和のアカデミー出身で、浦和ユース所属の08年に公式戦デビューした。09年にプロ契約を結び、14年夏までにJ1では167試合に出場して33得点。闘争心あふれるプレースタイルを前面に出しつつ、ゴールを決めるとサポーターの元に駆け寄ってともに喜び合う姿で、何度もスタジアムを沸かせてきた。
その後はドイツに渡りヘルタ、ハノーバー、シュツットガルトなどで計10年プレー。今年9月1日に浦和復帰が発表された。
浦和に戻って原口選手が気になったのは、以前と異なる「静かさ」だった。埼玉スタジアムでの復帰初戦となった9月21日のFC東京戦は開始直後のオウンゴールもあり0―2で完敗。原口選手は「失点後のリアクションを含めて、あまりにも静かすぎる。パワーが足りない。ホームゲームなので、自分としては情熱的にプレーしたいですけど。たくさんのサポーターがああいう雰囲気を作ってくれるのに、あまりにパワーも勇気も足りなかった」ともどかしさをあらわにした。
今夏にかけてチームはショルツ選手や酒井宏樹選手、岩尾憲選手らリーダー格の主力の退団が相次いだ。試合はもちろん、普段の練習から自分にも仲間にも高いレベルを課して、厳しい意見をそんたくなく伝えられる原口選手の言動は、よりどころを見失いかけていた浦和に再び灯をともした。残留争いもちらついた終盤戦だったが、広島戦の勝利でJ1残留が確定した。
試合内容も徐々に向上し、原口選手は「広島戦でチームが見せたパフォーマンスがかなりマチェイ(スコルジャ監督)さんの理想に近いと思う。しっかり守って、自分たちのいい時間帯に効率良く点を取る。そして相手が前掛かりになったところで追加点を狙う。ボールを持っている時の精度をもっと上げたい」と手応えを感じる。「何が目標かって、来年優勝すること」。原口選手の情熱も後押しし、浦和は再び戦う集団になりつつある。【角田直哉】
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