総立ちの観客を前に
4分間のフリーの演技を終えた青木選手を待ち受けていたのは、詰めかけた観客のスタンディングオベーションでした。
その後は、我慢していた大粒の涙があふれ出しました。
「心から望んだ景色」
それが、そこに、あったからでした。
「本当に続けてきてよかった。本当に頑張ってきてよかった。自分をほめてあげたい」
戻ってきたNHK杯で青木選手は、充実感にあふれていました。
“誰にも見られたくない” そう思った日々も
現在、22歳の青木選手は、ジュニア時代に難度の高い3回転の連続ジャンプを成功。華麗な滑りに表現力も兼ね備えた演技に、将来を有望視されていました。
ただ、その後は足首のケガなどもあり、伸び悩みました。
全日本選手権で最下位になったこともありました。
「もう誰にも見られたくない」とふさぎこんだことさえあったといいます。
1年前の“決断”NHK杯を最後に でも…
大学4年生だった去年11月、青木選手は決断しました。荒川静香さんが金メダルを獲得したトリノオリンピックの演技を見て5歳で始めたフィギュアスケートと、“サヨナラ”することを。大学卒業とともに引退する最後の国際試合として選んだ舞台がNHK杯でした。
結果が出ない日々の中でも「最後は笑顔で楽しく滑ろう」。
そう決めたら不思議と、内から湧き出るチカラがありました。振り絞った思いを滑りに乗せて納得の演技ができました。
やりきった演技を終えてリンクで一礼して頭を上げた自分を待っていたのは、お客さんの大喝采でした。見たことのないというその景色に、こみ上げてきた「何か」がありました。
やりきったはずなのに。
でも…
「もう一度だけ、この景色を見たい」
戻ってきた 同じ景色だった
再びリンクに立った今シーズンでしたが、グランプリシリーズ初戦のアメリカ大会では7位。ふがいなさから涙しました。
そして、2戦目のNHK杯。
世界女王の坂本花織選手、去年の全日本選手権2位の千葉百音選手と一緒の舞台でしたが、「世界の頂」を目指す2人と、その立ち位置は異なるものだったと思います。
それでも、自分にとっては、特別な舞台でした。その目は少女のように輝いて見えました。
「気持ちを込めて滑りたい。また続けると決めた気持ちの強さを表現したい」
壮大な曲に乗せたフリーでの演技は決して「ベスト」とは言えないものでした。
ジャンプでは相次いで回転不足などで減点されました。
ただ、得意のやわらかな表現で、最後まで、笑顔で、演じきりました。
直後に広がっていた景色。やはり、1年前のあの日と同じでした。
フリーでは5位でしたが、前半との合計では3位。グランプリシリーズでは初の表彰台でした。
トップの坂本選手との得点差は30点以上あり、この舞台で「勝つ」ということまで、まだ距離があるのは現実です。
しかし、ずっと閉じていた目の前の扉が、このNHK杯で開いたと青木選手は感じているはずです。
「去年の自分に、よく乗り越えたねと伝えたい。これを自信につなげていきたいな」
負けて、なお、ひときわ輝く青木選手。
特別な舞台、NHK杯をまた新たなスタート地点として歩みを始めます。
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