サッカーと法律の勉強を両立させているFC町田ゼルビアの林幸多郎選手=東京都町田市で2024年4月23日、江連能弘撮影

 足だけではなく手も生かす――。サッカーのJ1で初昇格し、台風の目となっているFC町田ゼルビアが採用している戦法の一つに「ロングスロー」がある。Jリーグではこれまでほとんど見られなかった。

 町田のロングスローの担い手の一人が、左サイドバックとして今季リーグ戦全10試合フル出場している23歳の林幸多郎選手だ。「仮に相手がロングスローで攻めてきたら」と聞いてみた。すると「もちろん嫌です」と即答した。

 なぜ嫌がるのか。スローインは足で蹴るよりもスピードが出ないため、守備陣が頭でクリアしても遠くまではね返しにくい。町田はそこを狙う。クリアしたボールを狙って二重、三重の攻撃を仕掛けにいく。相手守備もFWを自陣に戻して人数を掛けて守るケースが多くなり、カウンターに転じにくい。

 林選手がロングスローを本格的にやるようになったのは今季からだ。Jリーグ鳥栖のU18(18歳以下)や明大時代には何度か試みたことはあったものの、昨季プロデビューした横浜FCでは「あまり投げた記憶がない」と振り返る。

ヴィッセル神戸戦の前半、ロングスローをゴール前に入れるFC町田ゼルビアの林幸多郎選手=東京・国立競技場で2024年4月13日、宮間俊樹撮影

 しかし、今季加入した町田では、敵陣でタッチラインを割ってスローインの機会を得ると、遠巻きからでもゴール前にボールを投げ入れ、再三の好機を演出している。

 町田は今季加入した韓国出身で、194センチの長身FW呉世勲(オ・セフン)選手がペナルティーエリア付近でのターゲットとなっている。直接頭でシュートを狙うというよりも、そこからのこぼれ球を拾って攻撃を仕掛け、相手守備陣に脅威を与えている。

 かつてJ2のジェフユナイテッド市原・千葉が2011、12年、ノルウェー出身の204センチのFWオーロイ選手を軸にロングスローをしたことがある。ただ、今季の町田のロングスローの徹底ぶりは他チームに比べても際立つ。

 「セットプレーにかける時間が多い。求められることをしっかりやるのが選手の使命」と林選手。それに対処するチームが現れるか、それをさらに町田が上回れるか。町田のロングスローを巡り、各チームの戦術の引き出しが増えるか、注目だ。【江連能弘】

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