プロ野球で「黄色靱帯(じんたい)骨化症」という国指定の難病を患う選手が相次いでいる。8月にも2023年ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)優勝メンバーで阪神の湯浅京己投手(25)が手術を受けた。施術経験が豊富な福島県立医大・スポーツ医学講座の加藤欽志特任教授に、この病気や注意すべき点について尋ねた。
(末尾に黄色靱帯骨化症を公表した主な選手)
黄色靱帯は背骨付近にあり、弾性に富み、背骨を動かせば伸びたり縮んだりする軟らかい靱帯です。黄色靱帯骨化症は、日本人をはじめ東アジア人に多い病気です。
発生要因は不明な点が多く、国の難病に指定されています。元々骨化しやすい遺伝的な要因を持っているとみられる人が、長い時間をかけて背骨に力学的な負荷がかかり、靱帯が骨に変わり、ちょっとずつ大きくなって神経を圧迫して症状が出ます。神経を圧迫していても、症状が出ていないだけで、骨化した小さい骨を持っている日本人は結構いるのではないかといわれます。
野球選手では投手に多い病気です。要因は動きが(体をひねる)回旋だけでなく、前後屈が複合的に加わるからではないかと推察しています。投手の場合、首付近の頸椎(けいつい)と腰付近の腰椎(ようつい)の間の胸椎(きょうつい)の下位付近の靱帯が骨化することが多く、骨の形が変わる腰椎とのつなぎ目に、大きな力学的な負荷がかかるからではないかと考えられます。
時間をかけて骨が大きくなるので、一般的には50歳以上の中高年で発症します。しかし、野球の投手は小さい頃から極度に負荷をかけ続けているので、一般の人はゆっくりゆっくり骨が大きくなってくるところを、早送りして大きくなるイメージです。30歳未満での手術例は極めてまれです。
神経の「幹」と「枝葉」で症状に
圧迫される神経は一番大事な「幹」の脊髄(せきずい)と「枝葉」の神経根の2種類があります。神経根を圧迫した場合は脇腹の痛みなどの症状が出ますが、脊髄を圧迫した場合は下肢の違和感、脱力感から始まり、力が入らなくなったり、歩けなくなったり、さらに悪化すると尿や便の排せつの障害が出ます。
野球選手は両方に症状が出て、特に脚に症状が出ると手術を決断するケースが多いです。ものすごく重症になった場合、手術をして骨化した骨を取り除いて圧迫を取ったとしても、発病前の状態に完全に戻ることを保証することは難しいです。
強い症状が出るほど脊髄を傷つけています。脊髄を傷つけると治りづらい。若い選手は早めに診断名が付いて手術すれば、元のパフォーマンスまで戻せると信じています。
疑った場合は脊椎の専門ドクターに
神経根の場合はそんなに怖がる必要はなく薬で治療できます。しかし、(競技者の場合)脊髄が圧迫されて下肢に症状が出たら手術は早めの方がいいと思います。手術前に症状がどこまで悪化しているかはポイントです。(一般人の場合)軽症で手術する人はいませんが、完全に脚が動かなくなってから手術した人よりは、まだ力は入るが、おぼつかないぐらいの時期に手術した人の方が術後の回復具合は良いです。
医師がヘルニアや狭さく症と診断を間違うこともあります。医師が「骨化症もあり得るかもしれない」と頭の中に浮かんでいることが重要です。患者も骨化症を疑った場合は、脊椎の専門のドクターにかかりましょう。【構成・荻野公一】
黄色靱帯骨化症を公表した主な選手
2012年 巨人・越智大祐投手
2013年 ソフトバンク・大隣憲司投手
2018年 ロッテ・南昌輝投手
2022年 DeNA・三嶋一輝投手
中日・福敬登投手
2023年 ロッテ・岩下大輝投手
2024年 阪神・湯浅京己投手
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