判定で井上拓真㊨を破って新チャンピオンになった堤聖也(中央)=13日、有明アリーナで(戸田泰雅撮影)
ボクシングの世界戦4試合が13日、東京・有明アリーナで行われ、世界ボクシング協会(WBA)バンタム級タイトルマッチでは挑戦者の堤聖也(角海老宝石)が、王者の井上拓真(大橋)を判定で破り、新王者となった。 世界ボクシング評議会(WBC)フライ級王座決定戦は、寺地拳四朗(てらじ・けんしろう)(BMB)がクリストファー・ロサレス(ニカラグア)に11回6秒TKOで勝ち、ライトフライ級との2階級制覇を成し遂げた。 世界ボクシング機構(WBO)ライトフライ級王座決定戦では、岩田翔吉(帝拳)がハイロ・ノリエガ(スペイン)に3回3分TKO勝ちし、2度目の世界挑戦で新王者になった。WBAフライ級王者のユーリ阿久井政悟(あくい・せいご)(倉敷守安)は、タナンチャイ・チャルンパック(タイ)に2―1の判定勝ち。2度目の防衛に成功した。 ◇◆高校総体の敗戦から雪辱「この瞬間のためにやってきた」
試合終了のゴングが鳴ると、両者ともにロープにもたれかかった。精根尽き果てた。激しい殴り合いは、この試合に人生を懸けた堤の執念が上回る。判定3—0。下馬評を覆し、挑戦者が井上拓に13年越しの雪辱を果たした。 「この日、この瞬間のためにやってきたんで。生きてきたんで。信じられない」。血と涙でぐちゃぐちゃになった顔で勝利をかみしめた。6回、攻め合う井上拓真㊨と堤聖也=13日、有明アリーナで(戸田泰雅撮影)
2012年、高校2年時の高校総体準決勝で対戦し、敗れた。「ずっと胸に残っているしこりのようだった」と大学卒業後にプロへ転向し、同い年の井上拓を追いかけた。あの日から12年が経ち、ようやく再戦へとたどり着いた。 序盤から魂をも拳に乗せた。連打、連打。攻撃が止まらない。不格好でもいい。堤の気迫が王者の鉄壁の防御に風穴を開けていく。10回には左フックでロープまで飛ばし、ダウンを奪った。 片思いして追いかけてきた井上拓を倒し、初挑戦で世界王座を手にした。「彼がいたから、強くなった。彼がいたおかげで、こういう舞台に立てた。人生の恩人です」 この日、同学年の岩田が世界王座を奪取し、ユーリ阿久井は王座防衛に成功した。好選手がひしめく「1995年世代」の劣等生が、光り輝くベルトを巻いた。(森合正範) ◇◆井上拓は「気持ちで相手が上回っていた。弱かった」
ベルトを失う判定がアナウンスされると、井上拓は両手を合わせて観客に謝罪した。3度目の防衛に失敗し「気持ちで相手が上回っていた。自分が弱かった」とうなだれた。試合後、互いの健闘をたたえあう井上拓真(奥)と堤聖也=13日、有明アリーナで(戸田泰雅撮影)
序盤は持ち前のディフェンス技術を随所に見せた。だが、徐々に堤の執念に押し込まれ「相手のペースだった」と潔く負けを認めた。 目標に掲げていた同級のWBC王者、中谷潤人(M・T)との統一戦の構想が白紙になる手痛い1敗。今後について「ゆっくり休んでから考えたい」と声を絞り出すのが精いっぱいだった。 ◇◆「新しい拳四朗、第二章を」寺地は笑顔のTKO勝ち
幅が広がった寺地は強かった。スピードとパワーで圧倒し、王座決定戦で11回TKO勝ち。ライトフライ級に続く2階級制覇を成し遂げた。危なげない試合展開にも、リング上で「とりあえず、ほっとした。実はめっちゃ緊張していた」と胸の内を明かした。4回、クリストファー・ロサレス㊨を攻める寺地拳四朗=13日、有明アリーナで(戸田泰雅撮影)
跳ねるように足を使った。素早くステップを踏んでロサレスに重いパンチを放ち、主導権を握っていく。3回には右カウンターでふらつかせた。恐怖を植え付けるには十分。ここから、相手にロープを背負わせる時間が長くなった。守備でも動いて的を絞らせない。11回、相手の鼻血が止まらなくなりレフェリーが試合を止めた。 右拳を手術し、試合をするのは1月以来。この間、フライ級への適応に長く時間を割いてきた。打ち合いが多かったライトフライ級から一転、相手の攻撃を巧みに外しつつ的確にパンチを当てた。試合後もきれいな顔で、「本当は倒せたら良かったけど、いつもよりヒヤヒヤしなかったんじゃないか」とおどけた。 目標は、ライトフライ級でかなわなかった4団体統一。苦しんでいた減量からも解放され、リングで躍動した世界王者は笑顔で誓った。「新しい拳四朗、第二章を見せていきたい」。夢は広がるばかりだ。(丸山耀平) ◇◆岩田は同級・矢吹に挑戦状「日本人同士、盛り上がる」
豪快なパンチで会場を沸かせた。岩田が王座決定戦で3回TKO勝ち。初の世界王者に就き、「子どものころから夢見ていた。すごくうれしい」と頬を緩めた。3回、ハイロ・ノリエガ㊨を攻める岩田翔吉=13日、有明アリーナで(戸田泰雅撮影)
豪快にパンチを振り回すノリエガに、序盤こそ手を焼いた。それでも3回、右アッパーでダウンを奪取。残り10秒を切ると、一気にたたみかけて左フックで勝負を決めた。 2年前、世界初挑戦で判定負け。挫折を味わい「ボクシングへの向き合い方やトレーニングを変えた」。東京・日出高(現目黒日大高)3年時に全国高校総体で優勝した実力者。そのプライドを捨て、勝負どころを決めに行く嗅覚に磨きをかけて大一番に臨んだ。 試合後のリング上で、国際ボクシング連盟(IBF)同級王者の矢吹正道(LUSH緑)に挑戦状をたたきつけた。「日本人同士、実現したら盛り上がる」。余韻に浸ることなく、早くも統一王者への意欲を見せた。(丸山耀平) 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。