(29日、秋季奈良県大会準々決勝 智弁学園4―3奈良大付)

 今夏の奈良大会決勝と同じ顔合わせ。智弁学園のマウンドを守ったのは、この夏ベンチ外だった右腕、伊藤怜矢だった。

 身長171センチの体をめいっぱい使い、コーナーを丁寧に突いた。六回に味方の守備がもたついて同点とされたが、動じない。被安打2、1失点で9回を投げきると、タイブレークの延長十回も登板。最後まで投げきった。

 この夏は最後までベンチ入りを争ったが、奈良大会直前の練習試合で結果を残せなかった。甲子園では、同級生の田中謙心や1学年下の杉本真滉も投げた。野手でも同級生が主力を張り、全国8強まで勝ち上がった。その姿をスタンドから見守るしかなかった。

 新チームになり、9月にあった大阪桐蔭との練習試合で5回3分の1を無失点に抑えた。得意のカットボールとスライダーをまぜながら内角を攻め、打たせて取った。これが自信になった。

 この日の十回、1点差に詰め寄られた。自らのミスもあってなお無死一、三塁のピンチを背負ったが、「低めに、丁寧に投げよう」と冷静だった。左飛、投ゴロ、左邪飛と後続を断ち、何度もこぶしを突き上げた。

 「伊藤さまさま。コントロールが乱れることがないので、(最後まで)託した」とは小坂将商監督。

 ただ、監督の顔は晴れなかった。九回まで9安打を放ちながら、一回の1得点に終わった打線のふがいなさもあったのだろう。「甲子園組がしっかりしないと。全く機能していない」と話した。

 1番近藤大輝や4番の中道優斗ら、この夏の全国8強を経験した選手たちのプレーに、物足りなさを感じている。「何のために、先輩たちに甲子園に連れていってもらったのか。(新チームで)活躍して当たり前なのに」と監督の小言は止まらなかった。

 言い換えればそれだけ期待されているということ。伊藤ら新戦力が台頭しているだけに、甲子園経験者が本来の力を取り戻せば、8強以上を狙える。そんな自信も感じた。(大坂尚子)

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