(29日、秋季奈良県大会準々決勝 天理11―0大和広陵)

 打った瞬間に入ったとわかる会心の当たりだった。

 一回2死満塁、天理の6番打者、石黒輝慶はカウント2―1からのスライダーを思い切り振り抜いた。高校入学後初めての満塁本塁打が、先制点。一周するときに笑みがこぼれた。

 今夏の奈良大会は背番号20をつけてベンチ入りしたが、試合には出られなかった。チームは準々決勝でライバル智弁学園に逆転負けした。

 「ずっと試合に出たいと思っていたけれど、レベルが高くてなかなか無理だった」。出番がなかったこと、甲子園へ行けなかったこと……。そんな悔しさを、夏休みの練習にぶつけた。

 コーチ陣の助言を受け、打席でのタイミングの取り方を変えた。「(球を)呼びこんで、自分の間合いで。体を残すイメージで振った」

 打撃だけでなく、もう一つ転機もあった。外野手への転向だ。

 野球を始めた小学2年の時から、ポジションは基本的には捕手だった。複雑な思いがないとは言えなかったが、レギュラーになりたい、このチームで甲子園へ行きたいという思いが勝った。この秋、背番号「7」を手にした。

 この日、3安打5打点と結果を残した。会心の一発には藤原忠理監督も「振っていくのが持ち味」と目を細めた。守っては左翼から一塁、捕手と三つのポジションをこなした。

 2022年夏以来となる甲子園出場へ。「奈良県で1位になって、近畿大会でも1位になりたい」。夢の舞台へ行くためなら、ポジションはどこでも構わない。(大坂尚子)

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