過去に直前でラグビー・ワールドカップ(W杯)のメンバー入りを逃し、新生エディー・ジャパンでもう一度自らの夢へ突き進む29歳がいる。エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)の復帰後に日本代表入りしたプロップの三浦昌悟選手(トヨタヴェルブリッツ)。「一番の夢」というW杯への思いを明かした。
W杯は「一番の夢」
7日に埼玉・熊谷ラグビー場で行われたパシフィック・ネーションズカップ(PNC)の米国戦。三浦選手は先発メンバーに名を連ねた。スクラムの最前列の左右で相手のFWと組み合うプロップ。自身が要となるスクラムは反則を取られる場面も目立ったが、屈強な米国のFW陣を上回る力強さがあった。日本が41―24で勝利した後、三浦選手にミックスゾーンで声を掛けると以前と現在の自らの違いを語った。
「あの時は若かったし、余裕も全然なかった。今はすごくスクラムでも自信を持てるようになってきて、自分のやるべきことが客観的に見られている」
三浦選手の言葉に出た「あの時」とは、5年前にさかのぼる。2019年W杯日本大会の初戦まで2カ月を切った中で開催されたPNC。W杯メンバー発表前の最後の代表戦で、三浦選手は練習生から昇格する形で緊急招集された。プロップにけが人が続出したためだった。当時24歳だった三浦選手は、こう語っていた。
「W杯まであと一歩のところまで来ている。チャンスを逃さずにつかみたい」
当時のPNCでは2試合に途中出場したが、出場時間は計17分にとどまった。アピールにはつながらなかった。W杯前の最終合宿まで代表メンバーに入っていたものの、けが人の復帰で入れ替わり、夢の舞台への切符はつかめなかった。その後も22年6月のウルグアイとの2連戦に出場したが、23年W杯フランス大会のメンバー入りはかなわなかった。
転機となったのは、フランス大会後にジョーンズHCが日本代表の指揮官に復帰したことだ。
初陣となった今年6月。イングランド戦などに向けた合宿メンバーに三浦選手の名前があった。プロップで6人中4人は代表キャップがゼロ。最多は9を数える三浦選手だった。
「年齢は関係なく、(試合前に)良い練習をしている人が先発に選ばれる傾向がある。試合直前のメンバー変更もあり得るし、切磋琢磨(せっさたくま)できている」
今回のPNCは、三浦選手にとっても大きなチャンスになっている。8月25日のカナダ戦、9月7日の米国戦ではいずれも先発出場を果たし、16年の代表デビュー以来、2試合連続の先発は初めてだった。
「基本的なプレーできるように」
「やるべき仕事を果たしているかを(ジョーンズHCには)一番見られていると思う。特別なことをやるわけではなく、スクラムの安定感やブレークダウン(密集でのボールの奪い合い)での球出しなど、基本的なプレーをしっかりできるようにアピールしていきたい」
これまでの日本代表で同じポジションの「1番」といえば絶対的な存在がいた。直近3度のW杯に出場し、笑顔を見せずに武骨に戦う姿が注目されて「笑わない男」と呼ばれるようになった稲垣啓太選手(34)=埼玉パナソニックワイルドナイツ=だ。三浦選手も稲垣選手のプレーには大きな影響を受けてきた。
「1番としてのプレーの役割、やるべきことを世界トップレベルで体現していた。守備では、FW陣の中で最もタックルに行っている時もある。プロップの概念が覆されるぐらいハードワークしている」
稲垣選手は今回、負傷の影響で代表から離れているが、代表復帰を果たせばライバルとなる。
若手と絶対的な存在。プロップのポジション争いは激しくなりそうだが、27年W杯オーストラリア大会に向けて、悲願のメンバー入りへの思いは揺らがない。
「次のW杯までまだ3年ある。『下積み期間』と言われている今の一戦一戦で自分の役割をやるだけです。W杯はラグビー選手にとって一番の夢でもあるし、必ずその舞台を皆が目指す。ラグビー選手として絶対に目指したい」【高野裕士】
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