全盲の選手らがプレーするブラインドサッカーでは観客同士の話し声が思わぬ敵になるかもしれない。選手が頼りにするボールの音や指示の声に「雑音」が混じれば、プレーを惑わせてしまう。静かに観戦するよう周知があるとはいえ、不測の事態も起こりうるのが国際試合。28日開幕のパリ・パラリンピックで初のメダル獲得を目指す男子日本代表は、あえて騒がしい空間で試合経験を積み動じない心を養ってきた。(加藤健太)

 ブラインドサッカー アイマスクをした全盲の4人のフィールドプレーヤーと、健常者や弱視者が務めるGKの計5人で対戦。フットサルと同じ広さのコートを使い、ボールを取りにいく時には「ボイ」(スペイン語で「行く」の意味)と声を出すルールがある。前半、後半各15分。

国際親善試合で攻め上がるブラインドサッカー日本代表の川村©︎JBFA/Haruo.Wanibe

◆声と音が生命線

 「ゴールまで残り10メートル、角度は45度」。試合中は監督や敵陣ゴール裏に立つガイドと呼ばれる指示役の声が飛び交い、内部に金属プレートが取り付けられたボールが「シャカシャカ」と鳴って転がる。声と音が選手の生命線だ。  そのため観客に「お静かに」と書かれた案内板などで呼びかける。そうした独特のマナーはかえって騒音を引き起こす要因にもなった。中川英治監督は人さし指を口元にあてるしぐさをして「何人もが『シーッ』とやると波及して、相当の音量になる」と指摘する。ひそひそと会話する人も少なからずいて、観客が多い大会で静寂をつくりだすことは難しい。

◆騒音テストを兼ねた国際親善試合

 パラ初出場となった2021年東京大会は新型コロナウイルス禍で無観客。日本にとって有観客のパラはパリが初めてだ。日本ブラインドサッカー協会によると、エッフェル塔のふもとの会場には、16年リオデジャネイロ大会の倍以上の1万3000席が並ぶ。大観衆の中での試合経験が乏しい日本は、騒がしくなる事態も想定して警戒を強めた。  そこで7月初旬、一日に15万人が行き交うとされる大阪・梅田の駅前広場で騒音テストを兼ねた国際親善試合に臨んだ。この場所での開催は競技普及を目的にあらかじめ決まっていたが、騒音対策を練る中川監督には渡りに船だった。「どれだけ適応できるか良いシミュレーションになる。うるさくなるのは大歓迎」

7月、大勢が行き交う大阪駅前広場で国際親善試合を戦うブラインドサッカー日本代表(右)=©︎JBFA/Haruo.Wanibe提供

 あえて会場近くの噴水を止めない。カフェのBGMも流したままに。主催した日本協会はチームの希望通り、通常の試合とは真逆のざわつく空間をつくりだした。主将の川村怜(りょう=パペレシアル品川)は「プレーに集中すれば、騒がしさは気にならなかった」と手応えを口にした。

◆世界のライバルも騒がしさに順応?

 騒音対策をするのは日本だけではない。元サッカー男子日本代表で日本障がい者サッカー連盟会長の北沢豪(つよし)さんは「日本が初戦で当たるコロンビア代表は、国道に挟まれた場所で合宿をしていた」と明かす。世界のライバルも騒がしさに順応しているかもしれない。  ブラインドサッカーは、会場ごとに異なる音の反響具合もプレーを左右する。川村は慣れない体育館での試合後に「声が遠く聞こえて距離感がつかみづらかった」と戸惑いを見せたことがあった。パリの屋外会場はピッチを囲むように観客席がせり上がる。「どんな響き方をするのか公式練習で確かめたい」と川村。戦いは本番前から始まっている。感覚を研ぎ澄ませて「パリの音」をものにできるかもメダル獲得の鍵になる。

◆パリ・パラリンピック ブラインドサッカーの展望

 ブラインドサッカー男子は8カ国が2組に分かれて予選リーグを戦う。世界ランク3位の日本は1位アルゼンチン、8位モロッコ、12位コロンビアと同組。グループ2位以上で準決勝に進む。パラリンピックの正式競技となった2004年アテネ大会以来、5連覇中の同2位ブラジルとは準決勝以降で対戦する可能性がある。  日本は21年東京大会に開催国枠で初出場して5位。自力で出場するのは今大会が初。

◆日本の予選リーグ 試合日程

※時間は日本時間。丸数字は世界ランキング 9月1日(午後6時半) vsコロンビア⑫
9月2日(午後8時半) vsモロッコ⑧
9月3日(午後8時半) vsアルゼンチン① 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。