第106回全国高校野球選手権大会(朝日新聞社、日本高野連主催)に石川代表として出場した小松大谷は大阪桐蔭(大阪)を完封するなど2勝を挙げ、明るいニュースを石川県内に届けた。この夏までの軌跡をたどる。
3年ぶり3度目の甲子園出場を果たした小松大谷の現チームの発足は、昨夏の石川大会準決勝で星稜に5―6で敗れた直後。「気持ちで負けず、最高の舞台である甲子園に再び立つ」という思いを込め、「心勝(しんか)~再甲(さいこう)の舞台で」をスローガンに掲げた。
昨秋の県大会は4強。今春の県大会も星稜に1―2で敗れて4強にとどまったが、この敗北が転機になったと西野貴裕監督(49)は振り返る。「それまではミスをしても『まあまあ』という感じだったが、(選手同士が)『おい、あかんやろ』と言うようになった」
ノックでミスをすれば、監督より先に他の選手が「おいおい、それで負けるぞ!」と声をかける。学校のある小松市出身者が大半で小学生のころからの顔見知り。笑顔の絶えないチームだが、勝つためには遠慮せず、指摘し合うようになった。
監督は干渉を控えた。選手自ら「こういう風にしたい」と考えることで力がつくという。「自分たちで問題提起をして、解決できるチームに」と育て、大舞台への切符をつかんだ。
甲子園では初戦の明豊(大分)戦を8―4で制し、同校の甲子園初勝利を挙げた。石川大会5試合でのチーム打率は2割7分3厘と高くはなかったが、この試合は16安打。イメージを一変させるような打撃をみせた。
2回戦の相手は、甲子園で春夏計9回の優勝を誇る大阪桐蔭。組み合わせ抽選でその名がみえても、恐れることはなかった。「挑戦者」という意識が強く、東野達(いたる)主将(3年)が「より楽しめる。自分たちの力を出すだけ」というように、多くの選手が「楽しみだ」とわくわくしていた。
笑顔で試合に臨み、3―0と西川大智投手(3年)が完封。三塁も1度しか踏ませなかった。大阪桐蔭が夏の甲子園で無得点に終わるのは、初出場から50試合目(42勝8敗)で初めて。西川投手は試合後、「打ちたそうだなと思う打者の時は少し時間をおくなど工夫した。楽しかったです」と話した。
3回戦の智弁学園(奈良)戦には、能登高校(能登町)の野球部主将の竹下仁平さん(3年)と新出(しんで)萊杜(らいと)さん(1年)も応援に駆けつけた。元日の能登半島地震で被災した同校野球部は、2月に小松大谷と合同で練習し交流が生まれていた。竹下さんも「優勝目指してがんばってほしい」と、好機が訪れるごとに拍手をして見守ったが、3―6で敗れた。
加賀地方にある小松大谷だが、能登地方の実家が被災した部員もいる。東野主将は「勇気と希望を(被災地に)届けると言ってきた。もう少し長く自分たちの野球を見せたかったが、初戦と2回戦、そして今日のプレーは全力で悔いはない」と話した。
気持ちで負けない強さをみせた小松大谷の活躍が、多くの高校野球ファンの記憶に刻まれた夏だった。(小崎瑶太)
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