(17日、第106回全国高校野球選手権大会3回戦 西日本短大付―京都国際)
西日本短大付のエース村上太一投手(3年)は今夏の福岡大会を、帽子のつばに記された「必笑」の言葉を胸に戦った。だが、甲子園用に新調した帽子には、その文字はない。
最初は「何か『やってる感』を出したかっただけ」だった。昨秋の福岡県大会で福岡大大濠に敗れた後、笑顔と「必勝」をかけた言葉が浮かび、仲間に書いてもらった。敗戦は調子が悪かっただけで、練習すれば「次は勝てる」と思っていた。
一冬こえた今春の県大会。大濠と再び対戦し、初回に4失点。帽子を見ても、笑えなかった。何とか投げきったが「自分の動揺が仲間にも伝わってしまった」。また、勝てなかった。
目標は日本一だが、このままでは、甲子園も遠い。どうしたらいいんだろう。気を紛らわせようと、寮近くの坂道で夜、1人でダッシュを繰り返した。昼間の練習と違い、励ましてくれる仲間はいない。ふと、必笑を思い出し、無理に笑うと、もうひと踏ん張りができた。「苦しい時の笑顔って、本当に力になる」と気付いた。
気持ちを切り替えた。小食だったが、大きなおにぎりを1日に何度も食べて苦手な体作りに励んだ。地味でつらい体幹トレーニングも重ねた。迎えた福岡大会。切れのある球と抜群の制球力で打ち取り、ピンチでは帽子を見つめた後、笑顔で乗り切った。
甲子園でも成長を証明した。
9日の初戦。6点リードで迎えた九回、相手の金足農(秋田)を後押しする手拍子が球場に響いた。2点差に迫られたが、今度は自然に笑みを浮かべ、後続を締めた。14日の2回戦でも安定感抜群の投球でリズムを作り、快勝につなげた。
必笑の大切さは心に刻まれた。帽子にその文字はもう、いらない。優勝の瞬間まで、笑顔でマウンドに立つつもりだ。(太田悠斗)
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