(12日、第106回全国高校野球選手権大会2回戦 福井・北陸1―7東東京・関東第一)

 逆転し1点をリードして迎えた四回、関東第一のマウンドに向かったのは背番号1をつけた坂井遼(はる)投手(3年)だった。先発の畠中鉄心(同)は三回まで被安打5、失点1と本来の調子ではなかった。米沢貴光監督から「あとはお前一人で投げ抜け」と継投を告げられた。

 甲子園は雪辱を果たす場所だった。

 今春の選抜大会、八戸学院光星(青森)との開幕試合。この日も畠中から継投した。だが、タイブレークとなった延長十一回、焦りから暴投し、失点につながり、負けた。

 自分の弱さにも、チームを引っ張る投手としても悔しさが募った。「この悔しさは絶対に甲子園で晴らす」と、練習試合では終盤の粘りや勝負強さを意識するようになった。夏までに球速も4キロほど伸ばし、最速149キロに上げた。

 待ち望んだ夏の甲子園の初戦。関東第一は、制球力のある畠中が中盤まで試合を作り、速球派の坂井が継投して抑えるという展開を描いていた。

 だが、畠中の球は、北陸打線にうまく合わせられた。信頼する左腕の今までにない打たれ方に、坂井は「いつでも出られるように」と心の準備をしていたという。

 マウンドに上がった坂井は躍動した。140キロ台後半の直球とスライダーを織り交ぜる落ち着いた投球で、四回から七回まで無安打に抑え、球場の雰囲気をがらりと変えた。九回までスコアボードにゼロを並べ、この夏、自己最長イニングとなる6回を投げきった。

 期待に応えたエースに米沢監督は試合後、「彼の持ち味を出してくれて、淡々と放ってくれた。早い継投になったが、我慢しながらよくやってくれた」と褒めたたえた。坂井は「今までやってきたことを信じて、強い気持ちで投げられたのでよかった」。関東第一に重くのしかかっていた甲子園の初戦の重圧を、成長したエースが払いのけた。(佐野楓)

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