「応援でチームの力になる」。広陵(広島)野球部の吉村心翔(まなと)さん(3年)は、初めての公式戦出場となった昨年秋の県大会で痛恨のミスをした。その後の試合で出場機会はなかったが、今春のセンバツ以降は応援団長としてチームを支えている。
長崎県佐世保市出身。社会人野球をやっていた父の影響で、小学1年から地元の少年野球チームに入団した。「甲子園常連校で成長したい」と親元を離れ広陵に進学した。部員は約150人(現在)で、甲子園を目指して県外からも選手が集まる。吉村さんは50メートル6秒0の俊足が持ち味。足を生かした外野の守備や盗塁に自信があった。
新チーム発足後の秋の県大会で初の公式戦メンバー入り。「ようやくつかんだチャンス。自分の役割をしっかりこなしたい」と全力で大会前の練習に取り組んだ。
県大会準決勝。終盤に打者が出塁した場面で、代走として出場した。ベンチからはエンドランのサインが出ていた。しかし吉村さんはサインを見落としてアウトとなった。
次の大会のメンバーに名前はなかった。その日は一日中、涙を流した。自分が最も自信がある役割でミスをしたことが悔しかった。
そんなとき、入学当時から自分と同じ俊足のプレースタイルで憧れていた2学年上の執行愛矢(しぎょうまなや)さんのことを思い出した。執行さんは公式戦メンバーから外れた後、応援団員として活躍していた。
帽子のつばの裏にが「一球集中」
悔しい経験を糧に再びメンバー入りを目指す道もあるが、「自分もプレー中は応援の力に何度も後押しされた。次は自分がチームを支えよう」と考え、応援団に入った。
年が明けた1月下旬には選手らから応援団長として推薦された。「歴史ある広陵で大事な仕事を任された。やってやるという気持ちだった」。応援団はメンバー外の部員数十人が務める。最初は全員をまとめるのは大変だったが、それでもセンバツや春季県大会前に練習を重ね、一体感が生まれてきた。
応援団の練習は甲子園開幕の1週間ほど前からスタート。7月の広島大会で優勝後、甲子園に向けて、太鼓のリズムや振り付けなどを入念に確認した。12日の熊本工との試合ではスタンドで応援団を先導する。
帽子のつばの裏には「一球集中」の文字が刻まれている。「野球は一つ一つのプレーが大事になる。試合が終わる最後の一球まで全力で選手の応援を続けたい」と意気込む。【井村陸】
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