陸上男子400メートルリレー決勝、最終走者の上山紘輝(右)にバトンを渡した第3走者の桐生祥秀=フランス競技場で2024年8月9日、和田大典撮影

陸上 男子400メートルリレー決勝(9日・フランス競技場)

日本=37秒78(5位)

 3走の桐生祥秀からバトンを受け取ったアンカーの上山紘輝の視界には、自分より先を行く他国の選手はいない。表彰台、どころの話ではなかった。

 夢は、一瞬で覚めた。

 バトンが渡った直後からカナダのアンドレ・ドグラスが一番外側のレーンから猛追。さらに南アフリカのアカニ・シンビネらがまくってきた。ドグラスは東京五輪男子200メートル王者、シンビネは今大会男子100メートル4位の実力者。「レベルの高いメンバーにどこまで耐えられるか」を自らに課した上山だったが、最後は「個」の力に屈した。

 決勝は「ぶっつけ本番」のオーダーだった。

 全体4位で通過した、8日午前の予選。その日の午後、土江寛裕・日本陸連短距離ディレクターらスタッフは、2走・柳田大輝の処遇を話し合っていた。今季途中まで好調だった21歳は固定メンバーと位置づけていたが、バトンワークを含めなかなか調子が上がらなかった。

 直線での速さに優れる選手が起用される2走で、不安が残る柳田を引き続き走らせるべきか。その夜のミーティングで選手らに示されたのは、予選で1走を担ったサニブラウン・ハキームの2走起用だった。

 抜群のカーブワークが健在だった3走の桐生、勝負どころで粘りの走りを見せた4走・上山と、予選でめどが立っていたこともあり、前半でいかに貯金を作るかが鍵だった。鋭い出足に定評がある坂井隆一郎を1走に起用し、男子100メートル準決勝で自己ベストの9秒96をマークしたサニブラウンにつなぐことで勝機は高まるとみた。

 土江氏によると、サニブラウンの2走起用はこれまでで初。しかも4人の走りを合わせたのは、決勝当日のアップだった。

 「しっかり準備したオーダーを組む」(土江氏)という信念を曲げて臨んだ布陣は奏功したように見えた。だが、それでメダルを手にできるほど甘くはなかった。

 100メートルで世界選手権2大会連続決勝進出のサニブラウンの存在は、国内ではずぬけている。日本選手初の9秒台スプリンターの桐生は「ハキームのライバルになって追い抜くくらいにならないと」と、サニブラウン頼みとなったレースを冷静に振り返った。

 100メートルでパリ五輪の参加標準記録(10秒00)を突破して出場したのはサニブラウンだけだ。そのエースですら、決勝の壁にはね返された。

 自国開催の東京五輪でのバトンミスから3年。4人の走りは大舞台でつながった。ただ、勝負どころで急造のオーダーで戦わざるを得なかった現実は、今後の日本短距離界に重い課題を残した。【パリ岩壁峻】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。