陸上男子110メートル障害準決勝1組、4着となりタイムを確認する村竹ラシッド=フランス競技場で2024年8月7日、中川祐一撮影

陸上 男子110メートル障害準決勝(7日・フランス競技場)

村竹ラシッド=13秒26(決勝進出)

 最後のハードルを跳び越えると、つんのめりそうになりながらフィニッシュした。この種目で日本勢が初出場した1928年アムステルダム五輪から、約100年。組4着ながらタイムで拾われ、決勝の扉をこじ開けた村竹ラシッドに喜ぶ余裕などなかった。

 「着順で(決勝進出を)決めたかったんで……。自分の悪いところが、ふんだんに出てしまった」

 世界選手権3連覇中のグラント・ホロウェー(米国)と同組。世界記録(12秒80)に迫る12秒81の自己記録を持つ王者に立ち向かうというより現実的に2着での準決勝突破を狙ったが、前半にハードルにぶつかり思うように加速できない。レース前のアップで重心が高くなっているのを気にして、腰を落としすぎたのがあだになったという。立て直す間もなく、ライバル視していた両隣のレーンの選手に先着を許した。

 日本タイ記録でもある自己ベスト(13秒04)には遠い、13秒26。しかし、次の組の選手たちのタイムが伸びず、首の皮一枚つながった状態で決勝進出の可能性が残っていた。その間も「『どこが悪かったんだろう』と後悔ばかりしていた。生きた心地がしなくて」。ショックを引きずったままだった。

 順大の先輩で、2023年世界選手権5位の泉谷駿介(住友電工)が最終3組で3着。記録が13秒32で確定すると、村竹の決勝進出が決まった。日本勢同士で明暗が分かれた。

 村竹の表情はまだ、さえない。

 「うれしいとも、ほっとしたとも違う。ちょっとよく分かんない」

 トーゴ出身の父を持つ22歳は順大進学後、男子400メートル障害で95年世界選手権7位の山崎一彦氏(日本陸連強化委員長)の指導で頭角を現した。

 高い身体能力ゆえか、腰や脚などに故障を抱えがちだ。

 山崎氏は「とにかく出るレースをコントロールしないといけない。逆に言えば、試合の数をコンスタントにはこなさないということですね」と、苦笑交じりに語る。

 一方で、師は教え子について「抜群の集中力があるので、試合になるととんでもない力を出す」とも評す。反省だらけの準決勝を終え、村竹は「最高峰の舞台で戦うので(ホロウェーら)強豪相手に全身でぶつかっていきたい」。

 掲げた目標は、12秒台での日本記録更新とメダルだ。ようやく吹っ切れた今の心理状態の方が、世界を驚かせる結果を残せるかもしれない。【パリ岩壁峻】

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