アトランタ大会以来の低迷

複数のメダル獲得と全員の決勝進出、そして3月の代表選考の大会の記録を超えていくことを今大会の目標に据えていた競泳の日本代表。

男女16種目に22人が挑んだ個人種目では、メダルを獲得したのが男子400メートル個人メドレーで銀メダルだった松下選手ただ1人にとどまり、メダルが1個以下に終わったのは、獲得がゼロだった1996年のアトランタ大会以来となりました。

さらに決勝に進出したのも8種目で延べ10人にとどまり、代表選考の大会よりも速いタイムをマークできた選手は松下選手と、女子200メートル平泳ぎで4位に入った33歳の鈴木聡美選手、男子200メートル個人メドレーで7位だった瀬戸大也選手、女子100メートルバタフライで7位に入った17歳の平井瑞希選手、そして男子100メートルバタフライで8位だった水沼尚輝選手の5人だけでした。

地元・フランスの熱狂的なファンを中心に満員の大観衆が連日詰めかけるなか、国内大会で出せていたタイムにすら届かない選手が多く見られました

今大会で監督を務めた日本水泳連盟の梅原孝之 競泳委員長は「目標に遠く及ばなかった。準決勝から決勝進出に向けて、もうワンステップ上げる意識づけが足りなかった。合宿の内容ももう少し精査して内容の濃いものにできればよかった」と反省を口にしました。

本多選手 予選敗退の衝撃

特に衝撃だったのが男子200メートルバタフライの世界選手権の金メダリストで、東京大会に続く2大会連続のメダル獲得を狙った本多灯選手の予選敗退でした。

自己ベストのタイムから4秒以上も遅れる大敗に、本多選手は「途中から体が動かなくなった。緊張したということばで言えばそうかもしれないが、何も考えられない」とショックを隠しきれませんでした。

梅原委員長は本多選手について「力を持っているのはこれまでのタイムが実証しているが、金メダルを狙うという位置に立ったときの緊張感というのが大きかったのではないか」と分析しました。

その一方で、33歳の鈴木選手が「決勝が今までの練習を含めていちばんいい泳ぎができた」と話し、キャプテンの27歳、水沼選手も「会場の雰囲気を自分のものにできた」と語るなど、経験豊富な選手がオリンピック独特の雰囲気を力に変えて泳ぎ切ったことが印象的でした。

日本競泳界全体として、世界選手権などの大きな国際大会の舞台でいかに場数を踏ませ、プレッシャーとの向き合い方をコントロールできるかも今後の課題となりそうです。

高校生は全員が決勝を経験

こうした中でも今後の光となったのは若手選手が貴重な経験を積んだことでした。

今回、高校生で出場した、平井選手と女子400メートル個人メドレーの成田実生選手、男子800メートルリレーに出場した村佐達也選手の3人は全員が決勝の舞台に立つことができました。

3人はそれぞれ初めてのオリンピックの舞台を肌で感じ、さまざまな課題に直面しました。

決勝で、スタート直後の入水でミスが出た平井選手は、「大舞台で失敗してしまう課題がでた。どの大会でも自己ベストを更新し続けられるように頑張っていきたい」と失敗を糧にする決意を語り、自己ベスト更新はならなかった成田選手は「決勝でしっかり戦うことをイメージしてやってきたが、実際は予選を通るのも必死だった。今後、自分をさらに強くさせるための今大会にしたい」とさらなる成長を誓いました。

そして、リレーメンバーだった村佐選手は、「自分の未来のためにもすごくいい経験ができた。ほかの種目の決勝を見ていて自分ももっとレベルの高い選手になりたいと思った。これからの4年間、死ぬ気で努力したい」とロサンゼルス大会での個人種目での出場へ意欲を見せました。

村佐選手とともに、男子800メートルリレーのメンバーとして決勝進出に大きく貢献した27歳の松元克央選手は、“若い選手に何かを残せるような大会にしたい”と副キャプテンとしての思いを語っていました。

そしてレースを終えた松元選手は「オリンピックでの経験を若い選手が積めたことが必ず次につながると思う。次のオリンピックでメダルを狙ってほしい」と後輩たちの飛躍に期待を込めました。

梅原委員長は4年後のロサンゼルス大会へ、「若い選手がそろってきているということは 今大会で感じた。順調にステップアップしてもらうとともに、それより下の世代の選手たちも代表に入ってこられるように強化していく」とビジョンを語りました。

改めて世界との差に直面し厳しい現実を突きつけられた日本の競泳界。

“競泳日本”の復活に向け、これからの4年間でどう世界のトップレベルに追いつくのか、選手、関係者が一体となった取り組みが問われることになります。

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