競泳男子200メートル個人メドレー決勝で勝利し、右手の指で「4冠ポーズ」を作ったフランスのレオン・マルシャン選手=ラデファンス・アリーナで2024年8月2日、和田大典撮影

 パリ・オリンピック競泳男子で、フランスのレオン・マルシャン選手(22)が「個人4冠」をすべて五輪新記録で成し遂げた。五輪通算23個の金メダルを持つマイケル・フェルプスさん(米国)と比べられ、「新怪物」と称される地元の英雄は「信じられない。まずは一つのレースを勝とうと思っていた」と喜んだ。

会場は「レオン」コール

 登場するたび、会場は地響きのような「レオン」コールが湧き上がる。

 最初の決勝種目となった男子400メートル個人メドレーは、圧巻の強さだった。

 最初のバタフライから独泳状態を築き、他の選手を全く寄せ付けずにフィニッシュ。銀メダルを獲得した松下知之選手(東洋大)に約6秒差をつけての優勝だった。

 「(金メダルへの)チャンスは4回あったけれど、(一つ目の)クレージーなレースを終えてリラックスできた」

競泳男子200メートルバタフライに出場したフランスのレオン・マルシャン=ラデファンス・アリーナで2024年7月30日午前11時15分、中川祐一撮影

 4冠に向けて一番のハードルになるとみられていたのが、競泳第5日の7月31日だ。

 200メートルバタフライ、200メートル平泳ぎの2種目の決勝が重なる上、200メートルバタフライ世界記録保持者のクリシュトフ・ミラク選手(ハンガリー)、200メートル平泳ぎ元世界記録保持者のザック・スタブルティクック選手(オーストラリア)ら、強力なライバルも決勝に進んでいた。

 200メートルバタフライは、150メートルまでミラク選手を体半分ほどの差で追いかける展開となった。

 「彼は僕よりスピードがあるのは知っていた。だからできるだけ付いていった」。最後のターン後のドルフィンキックでついに並ぶと、観客は総立ちになった。ラスト15メートルで見事に差し切った。

 続く200メートル平泳ぎでは序盤のリードを生かし、最後の50メートルで追い上げるスタブルティクック選手を振り切った。2日の200メートル個人メドレー決勝も危なげなく勝ちきると、右手の指で「4冠ポーズ」を作った。

 「簡単なことではなかった。小さい肩に大きなプレッシャーがかかっていた。ポジティブな面に目を向け、ネガティブなことは考えないようにした」。地元の期待を一身に背負い、重圧とも闘っていた。

マルチスイマーの新しい形

 マルシャン選手はフランス・トゥールーズ出身。両親が競泳のオリンピック選手という「水泳一家」に生まれた。フランスで人気のラグビーや柔道が好きだったが、最終的に両親に従って競泳を始めたという。

 五輪初出場となった2021年の東京大会は400メートル個人メドレーで6位に入賞した。23年の世界選手権福岡大会では、400メートル個人メドレーで4分2秒50の世界新記録をマーク。フェルプスさんの記録を1秒34更新した。

 マルシャン選手のすごさをより際立たせるのが、バタフライと平泳ぎという「全く別の種目」を、200メートルという負荷の大きい距離で勝ったことだ。

 例えばフェルプスさんが08年北京五輪で8冠を達成した際は、個人メドレーの他は自由形とバタフライを泳いでいる。この2種目は、両手足の動きが同時か交互かという違いはあるが、ストロークの軌道は似ており、両方得意とする選手はしばしば見られる。

 一方、マルシャン選手が制したバタフライと平泳ぎは、ストロークの軌道もキックの打ち方も別物だ。複数の種目で活躍する「マルチスイマー」の新しい形を示したと言えそうだ。

 かつてフェルプスさんを育てたボブ・バウマン・コーチに師事する。「彼(フェルプスさん)と比べられるのを誇りに思う。彼の多くのレースを見てきたし、彼のコーチから学んできた。彼らが歩んできたのと同じ道を、僕は行こうとしている」

 22歳。まだまだマルシャン選手の「1強時代」は続きそうだ。【パリ深野麟之介】

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