トランポリン男子予選、西岡隆成の1回目=ベルシー・アリーナで2024年8月2日、玉城達郎撮影

パリ・オリンピック トランポリン男子(2日・ベルシー・アリーナ)

西岡隆成選手(20)=近大 16位(予選落ち)

 初のオリンピックの舞台、実力を全く出し切れなかった。西岡隆成選手(20)=近大=は予選2回の跳躍でともにバランスを崩し枠外にはみ出すミス。演技を通すことができず最下位に終わり「まだ頭の整理ができていない。自分では落ち着いていると思ったが、意外とそうではなかったのかも」とぼうぜんと振り返った。

 五輪前に耳にした、その告白は衝撃的だった。

 「僕、トランポリンが好きではないんですよ」

 調整が大詰めを迎える中で出た言葉。3回宙返りを6~7度入れた、最高難度の演技構成ができる日本の第一人者、世界の最前線で活躍するトップ選手に限ってそんなことがあるのか。

 なぜ嫌いなの?――。西岡選手は順序立てて答えた。そもそも自ら選んだ道ではなく2歳で体操を始めて小学生からトランポリンに転向。練習は日曜日以外は毎日で、泣きながらクラブに通ったこともあり「すごい好き、楽しい感じではなかった」。競技特性への抵抗もあった。一度演技が始まれば決着までわずか数十秒。「一瞬で全てが終わるかもしれない。失敗すると精神的にきつい」という。

 好きではないと公言するのは少しでも一般の人の興味を引き、トランポリンに関心を持ってもらいたいから。理由を説明した後には必ず付け加える言葉がある。「仲間とともに課題を克服して成長する過程や、国際試合での外国選手との交流がすごく好き。つらくて一人では投げ出しそうになることも皆と一緒だと頑張れる」。だからこそ、国内トップにまで上りつめることができた。

 練習に取り組む姿勢は真面目で「わがままだけど、一度ハマるとずっとこだわってしまう性格」。優れた空中感覚と技の完成度から「魔術師」の異名を取る。2020年から全日本選手権3連覇。初出場した21年世界選手権も銀メダルに輝いた。22年に左膝を負傷し手術をしたが「乗り越えてみろ、というメッセージに感じた」と克服。23年世界選手権で銅メダルを手にし国内の代表争いも制した。

 輝きを放つはずのパリでは、西岡選手が語っていた「抵抗感」が形となってしまった。試合後は「正直また4年間かって思ってしまった。今後トラウマ的なものも出てくるかもしれない」と疲れ切った様子だった。しかし、その後に続いた言葉に救われた。「でも……諦めることは絶対にないです。結果をしっかり受け止めて、次の五輪に生かしたい」。すぐには難しくても、また必ず前を向いて歩み始める。【パリ角田直哉】

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