“ふだんからの悪い癖が全部出た”
試合後、うつろな表情でインタビューエリアに立ち、20秒近く沈黙したあと質問に答えました。
「ふだんからの悪い癖が全部出た。自分が弱かったというか、きょうは自分らしいプレーではなかった。情けないし、悔しい」。
異変は初戦から
異変は初戦となった2回戦から見られました。
格下の選手を相手に序盤から立て続けに4ポイントをとられる苦しい展開。足が動かず、得意のロングアタックを出せずに後ろに下がる場面が続きました。
なんとか盛り返して14対14となり、先に1ポイントを取った方が勝つ一本勝負の末に勝ったものの、表情はさえず、地に足が付いていないように見えました。
“気持ちをもう1つぐっと入れることができなかった”
そして迎えた3回戦。
江村選手は初戦では見られなかった細かいステップで前に出て相手が出てくると引きながらうまく突いて出だしは上々に見えました。
しかしその後、初戦と同様、ロングアタックが決まらず、相手のカウンターなどで5連続ポイントを奪われ主導権を握られました。
自身の攻撃がかみ合わないうえ、流れを変えたいときにあえて剣を交換するなどして時間をつくるという心の余裕もなく、その表情には迷いが感じられました。
打開策を見いだせず、7対15の大差で敗れた江村選手。
ぼう然とした表情で「自分でもなんでこういう試合になったのか分からない。挑戦者の気持ちで臨んだがそこに体がついてこず、気持ちをもう1つぐっと入れることができなかった」と振り返りました。
解説者を務める元日本代表の山口徹さんは「江村選手は責任感が誰よりも強くて真摯(しんし)に競技に向き合っている。今大会は日本選手団の旗手に選ばれるなどメディアの注目度も高く、多くの人たちの期待に応えたいという彼女のよい面が逆にプレッシャーにつながったのかもしれない」と分析していました。
“前例のない新しい道を切り開きたい”
『前例のない新しい道を切り開きたい』。
江村選手は大学卒業後、その信念のもと日本フェンシング界では初のプロとして活動を始めました。結果で生活が左右される厳しい環境に身を置いたのは、プロとして成功を収めることで次の世代の選手たちに夢を持って欲しいという思いがありました。
初出場の東京オリンピックでは思うような結果が出せなかったものの、大会後、フランス人のジェローム・グースコーチとの出会いをきっかけにポテンシャルを開花させ、オリンピックに次ぐ世界選手権で2連覇の偉業を果たしました。
覚悟を決めて突き進むことでみずからの可能性を少しずつ広げてきた江村選手。何としても成し遂げたかったのがオリンピックでのメダル獲得でした。それとともに江村選手が今大会に向けて強く思っていたことは“自分を信じて楽しむ”こと。
しかし、大きな重圧と戦うなかで個人戦でそれを体現できたとは思えません。
団体戦 “フレッシュな状態で挑みたい”
江村選手にはまだチームメートと挑む団体戦が残っています。
「気持ちを引きずらずまたフレッシュな状態で挑みたい。そのためにも一回全部、自分の弱いところと向き合って何が足りなかったのかを考えたい。やらなきゃいけないことがたくさんあると思うので限られた時間のなかでできるかぎりの準備をしたい」。
必死に前を向いた江村選手。女子サーブル団体は8月3日です。
みずからを信じ、楽しんでプレーができるか、新たな道を切り開くチャンスはまだ残っています。
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