大相撲名古屋場所は横綱・照ノ富士が3場所ぶり10回目、名古屋で自身初の優勝を飾って場所を終えた。舞台となったのは名古屋市中区の愛知県体育館(ドルフィンズアリーナ)だ。昭和から数々の名勝負を生んできた愛知県体育館は、今場所限りで本場所会場としての役割を終えた。
「昭和40(1965)年7月場所に始まり、59回の長きにわたり開催できましたのも、大相撲ファンのご支援のたまものと、心より感謝申し上げます」
名古屋場所初日の14日、日本相撲協会の八角理事長(元横綱・北勝海)は初日恒例の理事長あいさつでこう述べた。「感謝」には老朽化などで役割を終える愛知県体育館への感謝にも聞こえた。
「熱帯場所」「南洋場所」と呼ばれた金山体育館
58年に始まった名古屋場所は当初、中区にあった金山体育館で行われた。冷房設備のない金山体育館での場所は「熱帯場所」「南洋場所」とも呼ばれ、館内に氷柱を置いて暑さしのいだ。一方、冷房が備えられた愛知県体育館は名古屋城二之丸御殿跡に64年秋に完成し、翌65年から名古屋場所(新型コロナウイルスの感染拡大で東京開催となった2020年の7月場所を除く)の会場になった。
ここでの最初の優勝者は横綱・大鵬だった。幕内優勝32回の「昭和の大横綱」にとって17回目の賜杯だった。1972年には米ハワイ出身の高見山が外国出身力士として初優勝する。93(平成5)年には横綱・曙が、同じく2敗で並んでいた大関・貴ノ花、関脇・若ノ花(後に横綱の貴乃花、若乃花)の「若貴」兄弟に、ともえ戦となった優勝決定戦で連勝して4回目の優勝を果たす。2021(令和3)年には横綱・白鵬(現宮城野親方)が最後の45回目の優勝を全勝で飾った。昭和、平成、令和と大相撲を彩ったのが愛知県体育館でもあった。
熱田区出身で元前頭・玉飛鳥の熊ケ谷親方(41)は名古屋場所で本場所開催地に先乗りし、準備に当たる先発担当を長く務める。今回もPRのため場所前にナゴヤ球場でのプロ野球・中日の2軍戦で始球式を務めるなどし、「入門した時から(愛知県体育館で)ずっと声援をもらっていた。寂しさはありますが、最後の場所を担当させてもらって光栄でした」と語る。
「自由席は子供料金200円」の〝原風景〟
子ども心に名古屋で力士の姿を見ると、「夏が来るなーみたいな。季節の変わり目というか」と感じていたという。同じく相撲をやっていた兄と一緒に愛知県体育館に観戦に行った。「当時は自由席の子供料金が200円でした。おすもうさんって怖いって。強いし、でかいし、怖いという思いが強かった。実際自分が(力士に)なってみると普段は優しいんですよ」と笑う。
愛知県体育館の最寄りは名古屋市営地下鉄・名城線の名古屋城駅。その名の通り、名古屋城側の出口から地上に出れば、その石垣や堀、「金のしゃちほこ」の天守閣も望めた。
来年から会場になるのは一つ隣の名城公園駅が最寄りとなる愛知国際アリーナ(IGアリーナ、北区)となる。文字通りに名城公園内で「名古屋城が目の前」という独特の雰囲気は受け継がれるそうだ。最大収容人員は約1万7000人で、大相撲の場合は最大1万2000人を収容予定だ。26年に開催される愛知・名古屋アジア大会の競技会場の一つで、来年の名古屋場所がこけら落としになる。
千秋楽には「来年の名古屋本場所は大相撲にとって新しい時代の始まりとなります」とあいさつした八角理事長。場所前に愛知国際アリーナを見学した熊ケ谷親方は「新しいドラマは絶対できますからね」。名古屋場所の新たな歴史が始まる。
【荻野公一】
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