卓球が行われている会場の仮設のスタンド。観客が足踏みをすると地鳴りのような音になる=パリ南アリーナで2024年7月29日、玉城達郎撮影

 熱戦が続いているパリ・オリンピック。複数のメダル獲得が期待される卓球はパリ南部の「パリ南アリーナ4」で行われているが、会場では意外な悩みが選手らを襲っている。観客の応援の「音」だ。

記者がアプリで測定すると…

 28日に行われた卓球女子シングルス1回戦。前日の混合ダブルス初戦で北朝鮮ペアに敗れた早田ひな選手(24)=日本生命=がサーブを打つ体勢に入ると、会場では「ドドドド……」と大きな地響きがした。

 卓球はアリーナの中で同時に4試合が行われており、別の試合を見ていた観客が応援のために床を足で何度も踏み鳴らしていたのだ。

 地響きは10秒ほど続き、その間に早田選手はサーブを打った。展示場内に作られた仮設会場のため、客席も大きく揺れていた。

 記者のスマートフォンの音量計測アプリで計測すると、音の大きさは「約80デシベル」を記録した。

 これは「鉄道の線路脇」「飛行機の機内」と同じレベルだという。記者席は観客席の後方に設置されているため、選手の耳にはもっと大きく聞こえているはずだ。

 日本卓球協会のホームページ上にある「観戦ガイド」では「卓球観戦では、ラリー中には静かにするのがマナー。選手がサービスの構えに入ったら、声援や拍手はストップしよう。そして、得点が決まったら拍手」との記載がある。会場を揺らす足踏みは、日本ではまず見られない。

卓球男子シングルス1回戦で声援を送る観客たち=パリ南アリーナで2024年7月29日、玉城達郎撮影

 男子の田勢邦史監督は「おそらく卓球を知らない観客もいて、盛り上がるタイミングがずれていることもある」と話す。選手には事前に「変な応援があるかもよ」と伝えていたというが、独特の空気感は実際にプレーしてみないと分からない部分もあったようだ。

 28日に男子シングルスの1回戦を戦った戸上隼輔選手(22)=井村屋グループ=は会場の雰囲気について聞かれると、顔を少ししかめた後、「最初はすごく戸惑いました。こんな応援の方法があるのかと」と苦笑い。「でも、逆に燃えたし、胸が高鳴った。この声援を長く味わいたいと思った」と前向きにとらえた。

 早田選手は試合後、「(大きな音は)思ったより気にならなかった。試合の時は試合に集中できていた」と話したが、早田選手を指導する石田大輔コーチはプレーへの影響を警戒した。「一部の国際大会や世界卓球だと中国中心の応援になる。そのリズムはもう分かっているので気にならないが、ここはずっと音がある状態だから、ボールの音も結構消えている。いつもより(会場に)慣れないといけない」と話した。

 独特な応援は「フランスならでは」なのか。卓球の会場で客席案内などを行っていたフランス人の男性ボランティアに聞くと、「フランスではこれがノーマルだよ。スポーツを応援する時は全身を使って選手にパワーを送るんだ。卓球だけでなく、他のスポーツでも同じだ」と教えてくれた。

 試合中のプレーへの影響は気がかりだが、試合後にはどの選手にも温かく大きな拍手が送られる。早田選手は「試合が終わった時は、まだ試合をしている選手に申し訳ないぐらい盛大な拍手と歓声をくれるので、できるだけ応えようという思いはあります」と語る。

 「まさか」の敗戦から始まった卓球日本代表のパリ五輪。独特な応援も力に変え、メダル獲得に挑んでいく。【パリ玉井滉大】

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