フェンシング男子エペ個人の表彰式で金メダルを手に笑顔の加納虹輝=グランパレで2024年7月28日、中川祐一撮影

 28日に行われたパリ・オリンピック第3日のフェンシング男子エペ。加納虹輝(こうき)選手(26)=JAL=が金メダルを獲得した。フェンシングの個人でのメダルは2008年北京五輪男子フルーレ銀メダルの太田雄貴さん以来、16年ぶり。男子エペでは21年の東京五輪団体に続く2大会連続の金メダルとなった。

 世界のトップと戦う姿に魅了され剣を握った少年が、個人では日本勢初となる金メダルを手にした。しかも競技発祥国の一つとされるフランスで。守りに徹してカウンターを繰り返し、フランスのエース、ボレル選手を寄せ付けない戦いぶりを見せた加納選手は「『これ、絶対勝てるな』と自信がありました」。最後は、得意のスピードを生かして相手の懐に飛び込んで胸を突くと、両手を上げて喜んだ。

 もともと器械体操をしていたが、北京五輪で太田さんの姿をテレビ越しに見たことをきっかけに、小学6年のときにフェンシングの世界に足を踏み入れた。「ルールがシンプルだからこそ奥深い」と、岩国工高(山口県岩国市)時代にフルーレからエペの道へ。胴体のみだった攻撃対象が全身となり、単純な「突き合い」の要素が強いエペならではの駆け引きを次第に楽しむようになっていった。

 日本は1952年ヘルシンキ五輪で牧真一さんが初めて五輪に出場して以来、フルーレの出場選手が最も多い。高校総体でも団体があるのはフルーレのみで、ほとんどの選手がフルーレから競技の世界に入る。

 だが、世界では「キング・オブ・フェンシング」と呼ばれ、欧州では圧倒的な人気を誇る種目こそがエペだ。種目別の競技人口では一番多いとされ、海外ではエペから始める選手も珍しくない。

 競技、さらには種目の普及へ思いを抱く加納選手は、高校時代を過ごした岩国市で22年から開催されている「加納虹輝杯」に講師として参加するなど協力。この大会はジュニアと、それよりも年齢層が低い区分のカデの選手がエペのみで争うという全国でも珍しい大会だ。今年も8月に開かれる。

 「僕自身、フェンシングを始めてくれる子がたくさん増えたら良いなと思っていますし、太田さんを見て僕がフェンシングを始めたように、僕を見て始める子が出てくれたら、フェンシング界にとって良い流れだなと思っています」

 金メダルを手に、未来への思いを口にした加納選手。この日グランパレで見せた剣の軌跡は、きっと未来のフェンサーの記憶に刻まれていく。【パリ倉沢仁志】

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