強みはミスの少ないスケーティング

ここ1年で急成長を見せていた14歳の吉沢選手の強みは高い技術に裏打ちされたミスの少ないスケーティングです。

スケートボードのストリートは、初めて採用された東京大会からレギュレーションが変更され、45秒間滑って技を繰り出す2回の「ラン」のうち1回が、必ず得点に採用されることになりました。

2回しか滑ることができない「ラン」で1度でもミスすると選手たちは精神的に追い込まれ、2回ミスすると、上位には届かなくなります。

吉沢選手のミスが少なく、すべての技を決める「フルメイク」の確率が高いという持ち味は、ランでの得点が計算できるという面で大きな強みとなりました。

さらに、ボードを横方向に回転させてレールに飛び乗る「ビッグスピンボードスライド」という得意技もその滑りを支えてきました。

初の大舞台でもリラックス

初めてのオリンピックの予選。

この大舞台でもリラックスした表情で臨んだ吉沢選手は、前半の「ラン」で、「ビッグスピンボードスライド」などを決めて得点を伸ばしました。

そして、5回のうち高い方から2回の得点が採用される後半の「ベストトリック」でも1回目と2回目で技を成功させ、余裕を持って予選トップに立って決勝進出を果たしました。

コンコルド広場に設けられた会場は地元フランスや強豪、ブラジルのファンなどから大歓声が送られる異様なムードに包まれていました。

それでも吉沢選手は「今までの大会よりも観客が多く圧というか、すべての視線が自分に集まっている感じがするので、新しい緊張感というか、期待に応えたいという思いがある」とそのプレッシャーですら自分の力に変えました。

“ここまで来たら1位か8位かしかない”

そして迎えた決勝。

吉沢選手はみずからの持ち味である“安定感”を超える、進化した滑りを見せました。

「ここまで来たら1位か8位かしかない」と覚悟を決めて、攻めの姿勢を貫いたのです。

前半の「ラン」ではボードを裏表に回転させたあとレールを滑り降りる「キックフリップボードスライド」という高難度の技を滑りの冒頭に組み込む構成に変え見事、フルメイクに成功しました。

さらに、圧巻だったのが「ベストトリック」の4回目でした。

ボードを縦と横に回転させたあとにレールに飛び乗って滑り降りる大技、「ビッグスピンフリップボードスライド」を成功させ、96.49というこの日の最高得点をマークして大きく両手を突き上げたのです。

この技は、「ベストトリック」で高得点を出すために特に力を入れてきた大技で、6月に行われたパリオリンピック予選シリーズの第2戦、ブダペスト大会で初めて成功させたばかりでした。

そして、金メダルが決まったあとの5回目のトリックでも別の技を成功させて得点を伸ばし、最後まで「攻める姿勢」を貫きました。

日本女子のレベルの高さを世界に示す

表彰式を終えてほっとした表情でインタビューに応えた吉沢選手は、「絶対に攻めて滑ろうと思っていた。レベルアップした滑りができてよかった」と会心の滑りを振り返りました。そして、「目標としていた笑顔で滑り切ることができたのがよかった」と納得の表情を見せていました。

この種目では15歳の赤間凛音選手が銀メダルに輝き、日本選手が2大会続けて2つのメダルを獲得して改めて日本女子のレベルの高さを世界に示しました。

長年、若手の女子スケーターを見守ってきた、日本代表の宮本美保コーチは吉沢選手も赤間選手も練習場ではレールの下にマットを敷いて難しい技の練習を繰り返し、成功率を上げる努力をコツコツ続けていたと明かします。

そのうえで宮本コーチは「できる技を常にアップデートさせ自分の独自の技を出そうとみんな考えている。それをお互いに高め合っているところも日本選手のよさだと思う。2人がメダルを取って、さらにみんなのやる気が出て、強くなってくれると思う」と期待を込めました。

東京大会から比べても格段に技のレベルが上がり、選手層も厚くなった日本のスケートボード女子ストリート。世界屈指の実力を誇る実力者たちがしのぎを削りながらたな日本の“お家芸”としてこれからも進化し続けます。

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