「一球入魂」。僕の母校・早稲田大野球部の寮に掛け軸があり、常に意識していた言葉です。
その言葉の生みの親が「学生野球の父」と呼ばれる飛田穂洲(すいしゅう)先生(1886~1965)。「一球入魂」が令和の球児にどう継承されているのか。早大の大先輩でもある飛田先生の母校・水戸一を訪ねました。
水戸城本丸跡にある伝統校で目を引いたのが、グラウンドを見守るように立つ飛田先生の胸像。隣には同じく水戸一から早大に進み、監督を務めた石井連蔵先生(1932~2015)の碑も。お二人にお目にかかり、身が引き締まります。
その視線の先には公立高でよく目にする運動部と共用するグラウンドがあります。照明も十分ではなく、練習時間は限られます。そんな中でも、昨秋の県大会で4強に入り、今春の選抜大会の21世紀枠候補に推薦されました。昨年度、東大15人、京大7人の合格実績がある全国有数の進学校でありながら、野球でも存在感を放っています。
ノックを見て感心したのが、選手たちの声かけの多さ。「今のフライはショートだろ」といった言葉が飛び交います。狭い場所をフル活用して班別に練習する工夫は選手たちの発案だそうです。
その中心にいるのが遊撃手の津田誠宗(せいしゅう)主将(3年)。「1球のプレーに至る準備や時間管理、学校生活など、一つ一つに気を配るのが僕らの『一球入魂』だと思っています」。津田主将に限らず、しっかりした受け答えに伝統を感じます。
そう、練習だけじゃなく、勉強や生活に関わることも、野球につながる。そしてその逆も――。僕が高校時代には気付けなかったことにも思いが至っていることに驚きました。
木村優介監督(39)は選手たちが自らやる、という姿勢を伸ばしたいといいます。「目標に向かってどう努力するか。野球を通じて、先の人生にも生かしてほしい」
「学生野球は教育の一環」と説き、猛練習で有名な飛田先生が唱えた「一球入魂」は、根性論で語られがちです。でも、それだけではなく、新しいものを、合理的に採り入れよう、という意味も込められていると思います。水戸一は、そんな「一球入魂」を受け継いでいると感じました。
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