四日市水泳協会から応援旗を受け取る谷口卓選手(左から2人目)=四日市水泳協会提供

 「花の都」で勝負強さを発揮できるか――。三重県四日市市出身で競泳・平泳ぎの谷口卓選手(22)=GSTR財団=はパリ・オリンピックで男子の100メートルとメドレーリレーに出場を予定している。3月に際どい勝負をものにして五輪への切符をつかみ取った谷口の素質を磨き、日本中学新記録を出すまでに泳力を引き上げたのが中学時代に指導した恩師の伊藤滋幸さん(60)だ。当時からここ一番で力を発揮する姿を見てきただけに「世界中から注目される大舞台で自身をアピールし、メダルまで手が届けば」と期待する。

 学校法人津田学園に勤めていた伊藤さんが2015年、水泳のコーチとして津田スイミング四日市(四日市市久保田2)に異動した時、タイミングを同じくして中学2年だった谷口がより競争できる環境を求めて他のスイミングクラブから移籍してきた。「今思えば、奇跡的な出会いだったのかもしれません」。伊藤さんはしみじみと振り返る。

中学3年の時に出場した大会で力泳する谷口卓選手=伊藤滋幸さん提供

 中学1年時の100メートル平泳ぎの記録は1分8秒台。「県内で一番になれるかどうかぐらいのレベルだったので、2年のうちに全国レベルに上げることを目標にした」

 抵抗の少ない泳ぎを体得させるため、誰も泳いでいない休み時間に、波が一切ない状況で練習させたり、スプリント力をつけるためにクロールで泳ぐ女子と競わせたり……。「元々、水中の姿勢とか足の動きとか(細かく教えなくてもできる)持って生まれた才能があった。そこに本人の努力と意欲が加わって結果につながった」。2年時にタイムが約4秒、3年時でさらに約2秒縮まり、1分2秒14の日本中学新記録(当時)を樹立した。

 ただ、競技生活は順風満帆というわけにはいかなかった。高校時代に心臓のカテーテル術を、大学でヘルニアの手術を受けた。2度の苦難を乗り越え、谷口が初の五輪切符をつかんだのが今年3月の代表選考会。59秒43のベストタイムをたたき出し、4位までとの差がわずか0・07秒というギリギリの勝負をものにした。

中学時代に谷口卓選手を指導した伊藤滋幸さん=三重県四日市市内で2024年6月29日午後3時19分、松本宣良撮影

 伊藤さんは、このレースを見て中学時代と重ね合わせた。「日本中学新を出した大会でも記録更新をかけて特別レースに挑み、皆の視線を一身に浴びる中で新記録を出した。大舞台が好きというか、注目されると頑張れるタイプ」と分析する。

 谷口は五輪出場が内定し、4月に四日市市役所を訪問した際、「どこまで戦えるか自分でも楽しみ。(50メートルの)ターン後にひとかき、ひと蹴りして浮き上がる速さはタイムも世界に通用すると思うので、そこをぜひ見てほしい」と胸を張った。

 伊藤さんは「中学時代にはなかったターンの技術を新たに磨いてより速くなった。物おじせず、ここ一番で実力を発揮できる能力は計り知れないだけに、うまくきっかけをつかんで個人では自己ベストを上回る泳ぎを見せてほしい。リレーではきちんと自分の仕事をしてほしい」と本番での活躍を願っている。【松本宣良】

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